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9月23日:スタチン治療の総括(9月8日号The Lancet掲載論文)

2016年9月23日
   LDLコレステロールを下げる薬スタチンは、生活習慣病に対する薬剤としては医師が処方する薬のトップに位置するだろう。スタチンのLDLコレステロールへの効果を最初に明らかにしたのは、1980年代に三共の遠藤章博士と大阪大学との共同研究で、この業績により遠藤博士は2008年ラスカー賞を受賞している。
  スタチンがLDLコレステロールを下げることについては、何百、何千もの臨床研究により証明されているが、これまで2つの問題が常に指摘されてきた。一つは、LDLコレステロールを下げたところで、心臓発作や卒中患者数は低下しないのではという疑問で、もう一つは横紋筋融解を始めとする様々な副作用が長期投与で現れるのではという心配だ。私の経験でも、スタチンは長期効果がないと信じている医師は多い。
   またスタチンがこれほど広く処方されると、メディアで取り上げられる機会も多い。スタチンの問題について報道されると、10%の人がスタチンをやめるというデンマークの調査がある。また英国では報道により患者さんがスタチンをやめることで、2000から6000の心臓発作が増えるという試算までされている。
   このようにメリットとデメリットの判断をめぐって、常に議論の的になってきたスタチンについて、医療統計学のプロの視点から論文を読み直し、「医師、患者、そして市民が心臓や脳血管障害を防止するため適切な判断を下す一助となることを目指した」総説が、英国医学協会とオックスフォード大学から9月8日号のThe Lancetに発表された。タイトルは「Interpretation of evidence for the efficacy and safety of statin therapy (スタチン治療の効果と安全性についてのエビデンスについての解釈)」だ。
   30ページに及ぶ長い総説で、到底全てを紹介することはできない。ただ、医師にはぜひ全てをじっくり読んでいただきたいと思う。
   最初、先入観を排して論文を調べることの重要性を強調するため、治験論文の評価の方法について、様々な視点から議論している。最終的な結論は、無作為化、偽薬、2重盲検が大規模治験の必須条件で、これに合わない論文には気をつけろという当たり前の話ではあるが、これ以外の観察研究の長所、短所についても考察されており、一般医師や学生の教材としても優れているように思った。
   このようにプロの視点とは何かを説明した後、これまで発表された治験論文から得られた様々な結論の再評価を行い、明快な結論を提出している。
1、 スタチンの効果
    LDLコレステロールを下げることで、間違いなく動脈硬化により心臓発作を少なくとも20%低下させることができる。LDL コレステロールを2mm/lに低下させると45%心臓発作が減る。また、心筋梗塞などによる死亡も1mm/l下げると12%程度減らすことができる。
  一方、ガンや感染防止についての報告は証明されているとは言えない。
2、 スタチンの副作用
   確実な副作用は、横紋筋融解で、頻度は10万人に2−3例で、スタチンを止めれば治る。
  糖尿病や脳出血の発症がスタチン服用で上昇するという報告は信用できる。ただ、この頻度と、スタチンによる全体の死亡率の低下から考えると、この副作用がスタチンを避ける理由にはならない。
   これ以外に、発ガン率が上がる、認知症が起こるなどの多くの報告がある。特に、英国MHRAは副作用のリストに認知障害の可能性を加えている。しかし、根拠となった研究は観察研究が中心で、2重盲検無作為化試験の結果では相関が認められておらず、この論文では副作用リストから外すよう勧告している。他にも、白内障、腎障害、一般健康障害など、これまで指摘された問題に対して丁寧に評価を行い、全て問題なしと断言している。
   以上、スタチン全面支持をうたった総説で、異論もあるかもしれないが、効果と副作用を科学的に検証することがどんなことかが大変よく判る論文だった。あらゆる医療介入は、このような冷静な立場で評価し、医師や患者に提供して欲しいと思う。

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