AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月7日:冠状動脈閉塞には手術かステントか?(10月31日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

11月7日:冠状動脈閉塞には手術かステントか?(10月31日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2016年11月7日
   ガンの治療でもそうだが、最初は治療のため手術しかなかった病気に、様々な新しい治療法が開発され、手術をするのか、他の治療を行うのかの判断が難しい局面が様々な疾患で増えてきている。中でも心疾患分野でのカテーテル治療はその典型だろう。動脈硬化で冠状動脈が細くなる冠状動脈疾患に対して、閉塞部位を広げるステント治療を皮切りに、弁の置換手術まで、カテーテルを用いた治療が開発され、また初期の方法の問題を解決した様々な改良が加えられてきた。こうなってくると、最初は手術が難しい場合に行っていたカテーテルによる治療も、一般的治療の選択肢として認められるようになる。一見この状況は患者さんにとっていいように思えるのだが、手術にするかカテーテル治療にするか、ますます判断が難しくなる。
   今日紹介する米国・コロンビア大学を中心とする他施設が参加した共同論文はまさに手術か、カテーテルかの問題を調べるために行われた研究で10月31日号のThe New England Journal of Medicineに掲載されている。タイトルは、「Everolimus-eluting stents or bypass surgery for left main coronary artery disease(左心主冠動脈疾患に対するエベロリムス溶出ステントとバイパス手術の比較)」だ。
   初期のステント治療の問題は、ステントの血管拡張能力が長続きせず、拡張局所に再狭窄が起こることだった。この問題を解決するためステントに塗り込んだ薬剤が溶け出すことで血管反応を抑えるステントが開発された。この結果、左心冠状動脈主枝の狭窄でもステント治療を安全に治療できるとする治験が相次いで報告されている。この研究では抗がん剤として使われるmTOR阻害剤エベロリムスで再狭窄を防ぐステントが用いられた。
  研究ではなんと1905人の患者さんを無作為にバイパス手術、ステント治療に割り振って、治療後三年間経過を観察、その間のあらゆる死因による死亡に加えて、新たな心筋梗塞や脳卒中の発症を合わせた問題の発生率で評価している。通常治験は治療に特異的な効果判定基準を決めるが、今回の場合は原因を問わず様々な問題を合わせて効果判断に用いることで、多くの施設からの結果を評価できるように計らっている。
   結果だが、三年間の死亡を含む複合的問題の発生を調べると、バイパス手術で15.4%、ステントで14.7%と両者ほぼ互角という結論だ。一方、術後30日以内での死亡は手術で4.9%、ステントで7.9%と、以外にもステントの方が最初の負担が大きい。事実治療すぐにおこる副作用は、手術で8.1%なのに対し、ステントで23.8%と高く、治療の完成度で言えば手術に軍配があがると言える。
   結局実際の判断になると、その病院で経験が豊富な方法を選ぶのがいいという結論になる。それぞれの治療のコストも今後の問題になるだろう。熟練した医師をどう育てるかも重要だ。
   ただ、素人の私から見ると、今回の結果は両方の治療もまだ改善の余地があることを示している。その意味で、さらに切磋琢磨してより安全な治療を達成した方に軍配をあげたい。

  1. 橋爪良信 より:

    私の父は、三年前に冠状動脈二か所完全閉塞で、無症状のまま掛かりつけにいつもの高血圧の診療で訪れた不死身の男です。
    そのまま即、血管造影、心臓カテーテル術を受け、現在は山歩きをしています。負担の軽さと術後の回復の速さで、カテーテルへ一票入れます。

    1. nishikawa より:

      一人が両方試せないので、どうしてもこのような臨床研究は重要だと思っています。

  2. 橋爪良信 より:

    術後30日以内での死亡は手術で4.9%、ステントで7.9%と、以外にもステントの方が最初の負担が大きい。という部分について。
    近親者に頸動脈にステントを留置した際に、はがれた血栓が脳梗塞を併発したケースがありました。先生が書かれております通り施術者の手技のレベル、診療科の経験の度合いからの選択は重要です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*