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11月25日:肉芽種性炎症とマクロファージ(11月17日号Cell掲載論文)

2016年11月25日
    卒業後研修医として働き始めた頃は、我が国でも多くの結核患者さんがおられた。私自身は当時講師だった泉孝英先生についてサルコイドーシスの特殊外来にも参加した。両方の疾患とも病理的には肉芽種性炎症疾患と分類され、構造化されたリンパ球やマクロファージの集積によって、一般の炎症と一目で区別できた。病理像の中でも目を引くのは、多核の巨大マクロファージの存在で、結核ではラングハンス細胞、サルコイドーシスでもアステロイドボディーを持った巨細胞が、あたかもオーケストラの指揮者のように存在していた。事実、同じオーケストラも指揮者によって全く異なる演奏ができるのと同じで、それぞれの肉芽の形に合わせて、違うマクロファージ由来巨細胞の顔は異なっている。
   今日紹介するドイツ・フライブルグ大学からの論文は、結核菌をモデルに巨細胞形成の分子基盤に迫った研究で11月17日号のCellに掲載された。タイトルは「DNA damage signaling instructs polyploidy macrophage fate in granulomas(DNA障害により誘導されるシグナルが肉芽での多核マクロファージの運命を決める)」だ。
   この研究では、1)マクロファージを巨核細胞へと誘導するシグナル、2)巨核になるメカニズム、3)巨核細胞が増殖できるメカニズムなどについて実験を行っており、示されたデータは膨大だ。さらに、論文も話が飛んでわかりにくい。従って、著者らの結論だけを以下にまとめる。
  通常マクロファージは、M-CSFなどの作用で増殖するが、ここに様々なサイトカインや病原菌の刺激が入ると、特殊な分化過程をとる。最もわかりやすいのが、RANKL刺激により多核の破骨細胞が分化する過程だが、結核菌(実際にはBCGを使っている)の場合、BCGによりTLR2が刺激され、さらに慢性炎症でTNFなどのシグナルが加わることで巨核細胞への分化がトリガーされる。これにより、マクロファージの発現する分子が代謝や炎症の観点から完全にリプログラムされ、特有の炎症組織形成につながる。
   BCGによる多核形成は、菌がつくるリポタンパク質により細胞分裂がうまく進まないことによりおこる。ただ、普通はこのような細胞はDNA障害が起こり、分裂が止まり、最終的に死滅するが、TLR2からのシグナルにより、DNA合成が続く。この結果、リポタンパク質の刺激は持続し、DNA障害により誘導される様々な細胞反応が起こる。またTLR2はMycの発現を誘導し、DNA障害を乗り越えて細胞の増殖を維持することに寄与する。結果、炎症が遷延し、肉芽種が形成される。
   以上が、マクロファージが多核化しても増殖を続け、また独特の形の炎症像を形成するシナリオで、十分納得できる。実験としては特に目新しいものはないが、あらゆる方法を駆使して、ほとんどの研究者が顧みなくなった肉芽の巨細胞の成立を突き詰めた点には拍手を送りたい。
  ようするにそれほど、肉芽オーケストラの指揮者の顔には魅力がある。   

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