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10月20日読売新聞記事(中島):「ヒト祖先は同一種」の新説…進化過程見直しも

2013年10月21日

元の記事については以下のURLを参照して下さい。http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20131019-OYT1T00426.htm
   このホームページでもこれまで様々な進化研究を紹介して来たが。報道でも、一般の方の興味をひくのか、医学に次いで紹介される事が多い。今回も、ワシントン支局の中島さんが、10月18日号のサイエンスに掲載された(表紙になっている)、グルジアのDmanisiと言う場所で新しく見つかった化石についての論文を紹介している。論文は、この化石群は、欧州最古の原始人の化石が見つかる場所で、直立原人がアフリカからヨーロッパに入った最初の入り口として最も注目されている場所だ。グルジア国立博物館と、チューリッヒの人類学研究所・博物館の共同研究で、最も新しく見つかった、頭部が完全に保存された化石の観察と、同じ場所で見つかった他の不完全な化石との比較に基づいて、人類の進化を考察した研究だ。特にハイテクが使われている訳でもない。ただ、発見された頭部の化石が完全である事、また、同じ場所から見つかった他の4個の頭蓋化石と比べる事で、ここで発見された原始人の間に、大きな形態学的多様性がある事がわかった点が今回の主な発見だ。実際論文に掲載された写真を見ると、素人の私でも同じ種には見えない。では、この発見がなぜ人類の祖先の研究のために重要なのだろうか?
  形態だけから分類する時一番問題になるのが、一つの種内での多様性なのか、あるいは種の多様性なのかを決める事だ。実際、現代の人類全体を見渡しても、大きな多様性が認められる。一方、これまでアフリカで出土した原始人の化石の多様性は、種の多様性と考える傾向が強かった。そのため、初期の原始人には様々な名前がついている。(Habilis, Ergaster, Georgicus, Erectusなどなど)。今回の研究は、同じ場所からの原始人の化石にこれほどの多様性が認められるなら、アフリカで見つかっている化石の多様性も全て種内の多様性と考えたらどうかと言う提案だ(今回発見された完全な頭部化石は、私が見てもサルに近い)。私たちは小学校で北京原人やジャワ原人しか習わなかった世代だが、人類の起源は多くの人の関心事である事を思うと、重要な仕事だ。
  さて、記事の方だが、全体としては正確で、短く今回の発見の要点をまとめてあるが、問題もある。まず一番重要な問題は、この仕事をグルジア国立博物館とハーバード大学の共同研究にしている点だ。しかしこの論文の責任著者は、グルジア国立博物館のLordkipanidze博士と、チューリッヒ人類学博物館のZollikofer博士だ。これはオリジナル論文を見れば、明確に書かれており、それを違う組み合わせで記事にするのは報道の大きな間違いと言える。ノーベル賞でもそうだが、誰にクレジットがあるのかは科学界では最も重要な点だ。日本のほとんどのメディアはこの点については、感覚が麻痺しているようで、今回の報道もその例になってしまった。もう一つ指摘したいのは、この論文が新説を提出している訳ではない事だ。ましてや、これまでのドグマを見直すと言うほどの問題ではない。元々、種内の多様性か、種の多様性はこれまでも議論されて来た。そして、様々な可能性がしっかり議論されて来た。今回の研究の意義は、人類の起源を最も単純に考える方が良いと言うデータを示した点だ。どうしてもジャーナリスティックに書きたいのはわかるが、新説という部分を削除しても十分訴える所は多いのではないだろうか。また、見直しなどと見出しを書く場合は、これまでの考えについてある程度まとめるぐらいの事はして欲しい。
   ただ、形態だけでは最終的にわからない事も多く、その意味で遺伝子が回収できると研究は進むだろう。しかし、このぐらい古い化石からはそれも困難だろう。とすると、この様な議論はまだまだ続く様な気がする。


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