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11月30日:DNAメチル化阻害剤デシタビンによる白血病治療(11月24日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2016年11月30日
     誰でも、やりたいと思っていた研究を、誰かが見事にやってのけているという論文に出会うという経験を持っていると思う。私にとって今日紹介するワシントン大学のグループがThe New England Journal of Medicineに発表した論文がそれにあたり、感慨を持って読んだ。タイトルは「TP53 and decitabine in acute myeloid leukemia and myelodysplastic syndrome(急性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群におけるp53とデシタビン)」だ。
   2005年ぐらいから、メチル化阻害剤が骨髄異形成症候群に効果があるという報告が続いていた。なぜ非特異的なメチル化阻害がそんなに効果があるのか、原因を調べてみたいと考えていた時、勤めていたCDBが次世代シークエンサーを導入することになり、治療前後で白血病細胞のメチル化状態と、遺伝子配列検査を調べる計画を立てた。
   多くの臨床の先生と話をし、デシタビンを導入するジャンセンファーマの人にも話をつけ、助成金も得られ、最初の2年でメチル化状態や、遺伝子を調べる体制を整え、いざ我が国でのデシタビン治験の始まるのを待っていたところ、デシタビンの長期効果が見られないからと、我が国での治験が中止になってしまった。その後大慌てで、5AZに変えたり、今も苦い思い出だ。
   今日紹介する研究も同じで、急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)にデシタビンを投与し、反応した患者さんと、反応しなかった患者さんの白血病ゲノムとメチル化状態を比べている。さすがに症例数は多く、116例に投与して、骨髄検査上では約半分で白血病のブラスト細胞の現象が見られている。
   デシタビンが効いた患者さんの多くは、p53に突然変異を持つグループで、驚くことに効果のなかった白血病の全てでp53変異がないことが分かった。一方、DNAメチル化については、効果の有無で明確な差が認められなかったという結果だ。
   また、デシタビンが効いた患者も、がん細胞を完全に消滅させることはできず、再発が必至であることも分かった。このデータを見ると我が国での治験を中止するという判断が下された理由もわかる。
   もちろんp53に突然変異のない人でも効果がある場合がある。さらに、なぜデシタビンがもともと通常の化学療法に反応しないp53変異を持つグループに一時的とはいえこれほど効果があるのか、この研究は何の答えも与えていない。おそらく、詳しくデータを解析していけばさらに重要な発見が出てくるような気がする。実際には、メチル化に関するより詳しいデータ解析から重要な発見があるような気がする。
   高齢化社会を迎えて骨髄異形成症候群の患者さんは増加している。ただ、骨髄移植が難しい高齢者では治療の決め手がなく、メカニズムの研究から薬剤を開発することが必要になる。その意味で、p53変異があるとデシタビンが効くという結果はメカニズムは全く不明でも、今後の治療開発に大きな貢献をしたのではないかと期待している。

  1. 橋爪良信 より:

    興味深く読みたいと思います。
    エピジェネ関連酵素の阻害剤のvitroの抗腫瘍活性とゼノグラフトの結果が全くリンクしない状況が続いております。

    1. nishikawa より:

      ヒストンに対する薬はもっと大変です。

  2. 橋爪良信 より:

    はい、苦労しております。
    磨きをかけた阻害剤が振出しに戻ります。

    1. nishikawa より:

      医学の人が、広い視野で化学者に提案してくれないと困ります。自分研究を客観的に自己評価できないのが我が国の問題でしょう。その場合は選択基準を厳しくする他ありません。

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