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読売新聞10月22日記事:糖尿病性腎症、仕組み解明…早期診断に道

2013年10月22日

元の記事については以下のURLを参照して下さい。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20131021-OYT1T00786.htm

糖尿病の合併症で一番問題になるのは血管障害だ。その結果、糖尿病性網膜症になると失明の危険があり、糖尿病性腎症になると、腎不全に陥る。糖尿病予備軍の数を考えると、今後更に日本での透析患者さんが増えるのではと心配だ。今日、読売新聞が紹介したのは、慶応大学内科からの研究で、血中グルコースが上昇する事により、尿に蛋白が漏れでてくるメカニズムを研究している。論文を見ると、責任著者は脇野さんになっている。論文を読んでみると、脇野さん達のグループは、今回研究対象になったSIRT1遺伝子を尿細管で発現させると、急性腎症が軽減される事を報告している。さらにこの分子の機能を追跡する中で、今回の研究につながったようだ。SIRT1とは様々な蛋白の脱アセチル化に関わる分子で、当然多くの分子がその作用を受ける。そのため、この分子が特定の病理変化を来すメカニズムを特定する事は難しい事が多い。そのためか、今回の仕事の量は膨大だ。今回脇田さん達が提案しているシナリオは次の様な物だ。まずSIRT1によって脱アセチル化されるヒストンは、クローディン1と名付けられた細胞間接着に関わる分子の発現を抑制する。実際にはDNA自体のメチル化まで進んでいるので、かなり安定なパターンを形成するようだ。さて、糖尿病性腎症では、SIRT1の発現が低下するため、結果糸球体で血液から尿への物質の出入りを調節している、ポドサイトと呼ばれる細胞のクローディン1と呼ばれる分子の発現が上がる。このクローディン1は普通、細胞間の接着を強める働きがあるが、ポドサイトで発現すると細胞接着を持たない細胞へと変換させる活性があり、この結果分子の出入りの調節が狂い、蛋白尿がでる。また、SIRT1の変化はポドサイトに高血糖が直接働く事で起こるのではなく、まず近位尿細管に作用し、この細胞からのニコチンアミド・モノヌクレチドがポドサイトに働きかけてSIRT1の発現が低下し、蛋白尿と言う症状がでると言う複雑な回路を形成しているようだ。結果が複雑なだけ、仕事も大変だったろうと推察する。論文にも書いてあるが、今回提案されているシナリオは、高血糖から蛋白尿に至る因果関係で、腎臓機能とはあまり関係がなさそうだ。実際、SIRT1の発現と、他の腎機能との関係を見るとほとんど相関はない。ただ、これはあくまでも尿細管でのSIRT1との相関で、もし血糖の上昇が他の細胞でもSIRT1を誘導するとすると、更に面白い話になるかもしれない。
   記事については、この複雑な回路に存在するキーになる細胞や分子を全て網羅し、苦労の跡が理解される。ただ、SIRT1の機能の紹介については、この論文で明らかにヒストン脱メチル化に焦点が当たっている事を考えると、多くの人が敬遠するエピジェネティックスの話にしても面白かった気がする。事実、食事やアルコールがエピジェネティックスの就職因子として重要である事など、生活習慣とエピジェネティックスは注目の領域だ。是非難しい課題にも今後はチャレンジして欲しい。見出しについては少し大げさな気がする。



  1. 浅川 より:

    AASJの記事解説を読んで、論文の内容がわかりました。ありがとうございます。

    1. nishikawa より:

      報道では見出しだけが大事な様です。本当は記者の人達も出来る限り勉強してもらいたい所です。

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