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12月27日:スプライシングを止めて刺激に備える(12月21日号Neuron掲載論文)

2016年12月27日
   刺激に対する細胞の反応は多岐にわたるが、必要なメカニズムに応じて反応の時間スケールが異なる。もっとも長い時間かかるのがクロマチンを変化させるエピジェネティックリプログラミングだが、次はシグナルにより新たな遺伝子転写を誘導する過程で、immediate early geneと呼ばれる遺伝子でも発現に30−60分はかかる。この時間遅延は、神経細胞のように早い反応を必要とする細胞では重要な問題になる。
   一部のリンパ球ではこれに備えるため、mRNAの翻訳開始を止めて、刺激に備えている。ただmRNAの選択性はないため、静止期、活動期の区別には向いているが、特定のタンパク質を迅速に供給する目的には向いていない。
   今日紹介するスイスバーゼル大学からの論文は、神経細胞はmRNAのスプライシングを途中で止め刺激に備え、シナプスからの刺激によってスプライシングを完成させることで、mRNAの転写をスキップして新しいタンパク質を合成できることを示した研究で、12月21日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Targeted intron retention and excision for rapid gene regulation in response to neuronal activity(特定のイントロンの保持・除去の調節による神経活動に反応する迅速な遺伝子調節)」だ。
   これまでスプライシングが途中で止まって一部のイントロンが残ったmRNA(IR)の存在が知られていたが、このグループはIRが迅速なタンパク質合成の鍵だとにらみ、まず脳内細胞に存在するIRを包括的に調べる方法を開発し、約5%ぐらいのイントロンがIRとして残ることを突き止めている。次に新しいmRNA転写を止めてIRが実際に細胞内に安定に維持されるか調べ、不安定、中間、そして安定の3グループに分類している。安定なIRでは実に2時間以上細胞内で保持される。
   次に脳から分離した皮質細胞のGABA受容体やグルタミン酸受容体を刺激し、刺激後のカルシウムの流入依存的に、保持されたIRからイントロンが切り出されることを示している。
   最後に、スプライスを逃れて残されるイントロンの特徴を調べ、短く、スプライスシグナルの弱くGCの割合が中程度という特徴を割り出している。ただ、IRは3000近く存在するが、神経刺激でスプライスされるのは350程度であるため、この差をさらに調べると、神経活動に反応する方はより強いスプライシングシグナルを持っていることが明らかになっている。
   以上をまとめると、神経細胞では一定の特徴を持つイントロンが常にスプライシングを免れ、IRとして保持されているが、その中で比較的スプライシングされやすい部分が、神経刺激に続くカルシウム流入依存的にスプライシングされ、核外に放出されタンパク質へと翻訳される。このような特徴的なイントロンを持つ遺伝子は神経細胞のシグナルに関わる分子が多く、これにより神経細胞に必要なタンパク質の迅速な供給が実現しているという結論だ。
   話はなるほどで終わるが、もしこのイントロンがそれほど特異的な性質を持つなら、いつこのメカニズムを動物は獲得したのか、進化的には面白い課題になる。神経細胞が見つかるのはクシクラゲや刺胞動物からだが、ゲノム解析が進めばIRが必要になるほどの神経活動がいつから生まれたのかもわかるだろう。

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