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1月2日:地球環境を守るための2017年の課題(Trends in Ecology and Evolution1月号掲載総説)

2017年1月2日
    科学でも、新しい年に向けた抱負を語ることは様々な分野で行われる。ただ、破壊が続く地球環境や、いつ絶滅してもいい動物を研究している生態学者にとっては、新しい年に願うのは、この悪循環をなんとか食い止めたいという思いだろう。しかし、環境破壊をただ社会に訴えても、社会に聞く耳がほとんどないことはわかっている。これを克服するため、英国を中心とする生態学者の有志が、地球環境保全に突きつけられた課題とそれに対する対策を整理して、新年の抱負として社会に提案し続けている。昨日紹介したような新年の抱負とは一味も二味も違うが、一般の方にも最も関わりのある提案なので是非紹介したいと思う。

   提案は1月号のTrends in Ecology and Evolutionに総説の形で掲載され、タイトルは「A 2017 horizon scan of emerging issues for global conservation and biological diversity (地球環境保全と生物多様性維持のための2017年の新たな課題をホライゾンスキャニングする)」だ。ホライゾンスキャニングはいい訳が思い当たらないので英語をそのまま使ったが、将来に備えて知識を収集し、それに基づき助言を行うことを意味している。

  このグループでは、各メンバーに2017年の課題を複数個挙げてもらい、挙がってきた99課題を全員で採点(1000点満点)しあって絞り込んだあと、9月に集まって15課題を選定している。それらを手短に紹介しよう。

サンゴと共生する藻類を操作してサンゴ礁の白化を防ぐ。
   地球温暖化に伴いサンゴ礁の白化が広がっている。この白化の原因の一つが、サンゴと共生する渦鞭毛藻の生存が温度に敏感なためであることが知られているが、高い温度に耐えられる渦鞭毛藻が最近発見され、高温耐性のメカニズムが明らかになった。この結果に基づき、危機に瀕するサンゴ礁に、このような高温耐性の渦鞭毛藻を移植する、あるいはその領域に生息する渦鞭毛藻遺伝子を操作して、高温耐性にして移植するアイデアを提案している。    生態学者が種の環境を破壊するのか?と疑問も湧くが、それほどサンゴの白化が深刻であることを示している。

ロボットを用いて外来侵入種を駆除する
   外来のヒトデのため、オーストラリアのグレートバリアーリーフのサンゴが4割も失われた。これまでヒトデを人手で(シャレではないが、)一匹づつ駆除するしかなかったが、ヒトデを探し出して胆汁塩を注入して駆除するCOTSbotが開発された。また、カリブ海では外来のライオンフィッシュを見つけて電気ショックで駆除するロボットも開発された。この結果に基づき、外来種の駆除にロボット開発を加速させることを提案している。

野生種のやみ取引と戦う電子の鼻の開発。
   保護にもかかわらず、多くの野生動物が組織的な密猟の対象になっており、各国政府や自然保護団体はこれと戦うため、主に犬を使った追跡を行っている。最近、高感度の電子臭いセンサーの開発が進んでいる。これに基づき、密猟組織の追跡や国境での密輸発見のため、犬の代わりに用いることができる安価な臭いセンサーの開発を促進するよう提案している。

マルハナバチの新しい地域への侵入
   マルハナバチは世界中に棲息しているが、オーストラリアやサハラ以南のアフリカには生息しない。しかし、農産物の受粉のためこのハチの国際取引は盛んに行われており、棲息に適した環境のオーストラリアや南アフリカに急速に拡大することが懸念されている。たかがハチと思われるかもしれないが、受粉対象植物の選択制のため、生態系が破壊され、さらには新しい病原菌を媒介する恐れすらある。

微生物を使う害虫駆除
   農産物に対する害虫駆除に微生物を用いることが普及しているが、今後さらに普及して、穀物や豆類の栽培へと拡大して、殺虫剤に変わることが期待される。この状況を考えると、微生物の生態系への影響に関する研究を加速する必要がある。さらに、温暖化ガス排出への影響についても真剣に検討すべきだ。

砂の採掘による環境破壊
   建築需要の高まりから、山や海での砂や砂利の採掘が急増している。この結果、生物種の絶滅は言うに及ばず、人間の生活環境の破壊による対立を生んでいる。早急に、リサイクル技術や、砂漠の砂の利用技術など、新しい開発が急務だ。

国境のフェンス
   トランプはメキシコ国境に壁を建設することを唱えて当選しているが、国境に設けられたフェンスや壁は、視点を変えると野生動物の移動を大きく制限する。実際、クロアチア固有の狼は、フェンスのために100頭にまで減少したことが報じられている。野生動物の移動を阻害しないフェンスのための研究と技術開発を提案している。

生活廃棄物処理と動物
   生活廃棄物の処理は都市環境にとって最大の問題だが、動物に取っても大きな影響を及ぼすことがわかってきた。たとえば、ヨーロッパのコウノトリは廃棄物中の餌に依存するようになり、渡りをやめている。またトルコやルーマニアのヒグマの生態にも大きな影響が見られている。では、処理場から動物をシャットアウトすればいいという単純な解決は通用しない。何年も同じ場所で暮らしたコウノトリが冬にアフリカに渡れるのか、あるいはヒグマが人間の居住地に侵入しないかなど、緊急に調査が必要だ。

上昇する海洋の風力
   温暖化で海上での平均風力はすでに10%近く上昇しているようだ。この結果、海岸の環境が大きく変わり、生態系が損なわれることが懸念される。ほとんど調査が行われておらず、早急に調査が必要だ。

海上風力発電
   現在、強く安定な風を求めて風力発電が50m以上の水深をもつ海域へと拡大する取り組みが進んでいる。ただ、この施設の生態系への影響はほとんど分かっていない。楽観的な人は、魚礁としての機能を強調しているが、反論も多い。技術開発と並行して早急な調査が必要だ。

生体工学の葉を使ってバイオ燃料を作る
   バイオ燃料というと葉緑素を持った植物からというのが定番だ。最近、太陽光を受けて水を水素と酸素に分解するチップが開発された。この水素をアメリカで開発されたバクテリアに炭酸ガスと一緒に供給すると、アルコールが合成できる。化石燃料への依存を下げる意味で、大きく期待できる技術として推進すべきだ。

リチウム空気電池
   これまでのリチウムイオン電池の10倍の効率を持つリチウム空気電池の開発が加速している。まだ実験段階と言えるが、化石燃料依存を下げるため、ぜひ工業化を加速してほしい。

逆光合成
   逆光合成とは、プラスチックなどもともと石油から作られた材料をもう一度石油に変える技術をさす。最近、光と触媒を使ってバイオマスから石油を作る効率が一段と高まってきた。この、光と触媒技術によるバイオマスやプラスチックからの石油生産は、化石燃料依存性を下げると同時に、環境保護にも貢献できると期待できる。

二酸化炭素の鉱物化
私のHPでも紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/5390)、二酸化炭素を水に溶かし、それを地中の玄武岩層に注入して、鉱物として沈殿させる技術の実証実験が行われ、95%の炭酸ガスが2年で沈殿したことが明らかになった。ぜひこの技術のさらなる検証実験を加速すべきだ。

ブロックチェーン技術の導入
   ブロックチェーン技術は、これまで中央集権的であったシステムを、個人同士のネットワークで置き換えることが可能であることは、Bitcoinで証明済みだ。この非中央集権的なブロックチェーン技術を、生態系保護、農業や土地管理に導入することで、生態系保護と土地私有とを両立する可能性を早急に模索すべきだ。

以上が提案で、科学予想とは一味もふた味も違う。科学者の思い上がりと思われる人も多いかもしれないが、私がまったく考えたこともない提案が並んでおり、ぜひ政治家にも読んでほしいと思った。

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