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一人一人の顔が違う理由。10月25日号サイエンス(オリジナル)

2013年10月25日

発生学は、違う個体でも同じ発生過程が正確に繰り返すのはどうしてかを問う学問だ。そのため、顔の様な個体の多様性(個性)が生まれる機構についての研究は苦手だ。今日紹介するのは今週号のサイエンスに掲載されたローレンスバリモア研究所の仕事で「Fine tuning of craniofacial morphology by distant acting enhancer(遠い場所の遺伝子を調節するエンハーンサーによる頭蓋顔面形態の微調整)」とタイトルがついている。誰もが理解しているように、顔の造作は遺伝的要素が多い。そのため自分の親や子供と顔が似ている事を認識できる。当然ほぼ同じ遺伝子を持つ一卵性双生児は顔が似ている。一方、遺伝だけでなく、エピジェネティックスと呼ばれるプロセスも顔の造作に大きく貢献する事も確かだ。一卵性双生児といえども顔が少し違うのはそのせいだ。今回の研究は、前者の遺伝的メカニズムに焦点を絞って研究している。ただ、地球上70億人の顔の違いを、限られた遺伝子でどのように実現できるのかはほとんどわかっていない。おそらく、遺伝子のスイッチのオンオフだけでなく、遺伝子を量的に調節するメカニズムが重要だろうと想像されていた。この研究では、頭蓋顔面形成に関わる組織の発現する遺伝子の調節に関わるエンハンサーと呼ばれる遺伝子上の場所を網羅的に調べた。すなわち、遺伝子の発現を比較的離れた所から調節する部分が関わる事で、量的な微妙な差が生まれる可能性を追求した。エンハンサーにはp300と呼ばれる蛋白質が結合している事が知られており、ある細胞で働いているエンハンサーのほとんど全てをp300が結合している遺伝子領域として分離してくる事が可能だ(染色体免疫沈降法:ChiPと呼ばれている)。これによって、まず4000以上のエンハンサー部分が同定された。勿論それぞれのエンハンサーは別々の遺伝子に対応しており、顔の発生だけでなく細胞の基本的機能に関わる遺伝子の調節にも関わっている。そのため、次にこの4000というベースラインから顔の発生に関わるエンハンサーを絞り込む事が必要だ。この研究では、他の動物(特に人間)でも保存されているのか、これまで顔の発生に関わる事が知られている遺伝子の近くにあるのか、などを勘案して、205種類のエンハンサーに絞りこんだ。次に、リストした全てのエンハンサーの活性を、マウス受精卵に遺伝子導入する最もオーソドックスな方法を用いて、顔の発生で実際に働いているかどうかを調べた、その結果、確実に働いているエンハンサーが121個リストされた。そのうちの4つのエンハンサーについて、パイロット実験として遺伝子ノックアウトも行い、今回選んだエンハンサーが確かに顔の発生に関わる事を確認している。時間と手間のかかった、大変な仕事だ。ただ、この研究からだけでは、これらのエンハンサーが顔の造作の形成にどのように関わるかについては明らかではなく、これからの研究にゆだねている。事実、この研究に使った純系のマウスでは、どのマウスもほぼ同じ遺伝子を持っている。従って、顔の造作の違いに、今回リストされたエンハンサーがどうつながるのかは、純系のマウスだけで研究するのは簡単ではない。もし突然変異を一つ一つ導入して造作の違いを誘導できたとしても、マウスの顔の造作の微妙な違いがわかるとは思えない。ではどうすればいいのか?幸い、今回リストされたエンハンサーはヒトでも保存されている。とすると、ヒトのSNPと呼ばれる遺伝子の多様性と、ヒトの顔認証のために積み重ねて来た様々な測定法を組み合わせて、遺伝子と顔の造作との対応関係をつける事が可能になるかもしれない。この点で、次の一手は、ヒトでの研究になる様な気がする。こんな話をすると、すぐデザイナーベービーと関連させて噛み付くマスメディアもあるかもしれないが、個性が対象になると言う点で、夢が将来に拡がる仕事だ。


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