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1月28日:レット症候群モデルマウスの学習機能障害の細胞学的原因についての研究(1月18日Nature Communication掲載論文)

2017年1月28日
    これまでアナウンスしてきたように、今日2時半からAASJチャンネルでは、最近力強く活動を始められたMECP2重複症の家族会の方々の生の声を聞いてもらおうと、ニコニコ動画の配信を行います(http://ch.nicovideo.jp/aasj)。特に今回は、MECP2という同じ遺伝子の変異によって起こるレット症候群の患者家族代表の谷岡さんをお招きして、今年3月に行われるレット症候群の国際シンポジウムにつてもお話をしていただく予定になっています。
   残念ながら私自身は所用で東京で会議、その後結婚式と参加できないのが残念ですが、患者さんの家族だけでなく、多くの方々に見てもらいたいと思っています。
   MECP2遺伝子はX染色体に存在する遺伝子で、メチル化されたDNAに結合して遺伝子発現に関わることがわかっているが、メカニズムが完全に明らかになったとは到底言えない。その理由は、この遺伝子の変異により起こってくる細胞レベルの変化が完全に記述できていないためで、結局思いつく治療はMECP2遺伝子の発現をあげたり、あるいは抑えたりする遺伝子治療だけになってしまう。しかし、細胞レベルでMECP2遺伝子変異で最も影響を受ける遺伝子が明らかになれば、その遺伝子の機能を調節して症状を抑えられる可能性が出てくる。
   さてレット症候群はMECP2の機能が失われる突然変異で、一方MECP2重複症は機能的MECP2遺伝子が倍になる突然変異だ。X染色体上にある遺伝子のため、レット症候群型の突然変異の場合、男児は全ての細胞でMECP2機能が失われ、新生児期で亡くなる。しかし、女児の場合X染色体不活化という現象で、各細胞が片方のX染色体だけを選ぶので、完全な正常細胞と、欠損細胞が混合した体ができ、この欠損した細胞の割合が多いと異常が起こる。
  逆にMECP2重複症は、女児の例も知られているが、基本的にはX染色体が一本だけの男児の病気だ。
   今日紹介するコールドスプリングハーバー研究所からの論文は、レット症候群のモデルマウスを用いて、学習にかかわる神経活動を調べた研究でNature Communicationに掲載された。タイトルは「MECP2 regulates cortical plasticity underlying a learned behaviour in adult female mice (MECP2 は大人のメスマウスの学習行動にかかわる皮質の可塑性を調節する)」で、1月18日発行のNature Communicationに掲載された。
   この研究ではレット症候群の学習障害の細胞学的原因が追求されている。普通学習というと、動物を訓練した結果を調べるが、この研究でメスマウスがバラバラに散らばった生まれたばかりの子供を自分の近くに寄せ集める行動を利用している。この行動は、出産を繰り返すほど素早く行われ、妊娠経験のないマウスでも本能でこの行動を示すが、集めるまでの反応に時間がかかる。これまでの研究で、生まれた子供が発する声に反応する聴覚野の学習を反映していることが知られている。
   この研究ではこの聴覚の学習が、レット症候群モデルマウスで低下していることを確認した後、学習による聴覚野の組織変化について調べ、変異の有無を問わず学習によりGABAを作るニューロンの数が上昇するが、レット症候群のみ学習を抑制することが知られているparvalbumin陽性細胞の数が強く増加し、神経を特定の場所に閉じ込めるマトリックスの形成が高まっていることを発見する。すなわちGABA作動性抑制ニューロンが増えすぎることが、学習障害の原因になっている可能性が出てきた。
   そこで最後に、レット症候群マウスと、GABAの生産が半分に低下したマウスを交配して聴覚野のGABA濃度を減らすと、学習障害が軽減された。さらに、コンドロイチンを溶かす酵素を聴覚野に注射しててマトリックスを緩めてやると学習障害が改善した。    以上の結果、学習時に抑制性ニューロン活性が高まることがレット症候群の障害の一部を説明できること、またこの過程を薬剤や治療法開発の手掛かりとして使えることが明らかになった。
   次はMECP2重複症を同じような観点から見直すことが必要になる。モデルマウスの場合、X染色体ではなく常染色体にMECP2を導入して重複症を再現することも可能で、全く同じ実験システムが利用できる。このように、常にレット症候群とMECP2重複症をセットで研究することが、患者さんだけでなく、基礎研究に取っても重要だ。その意味で、今日両方の患者家族の会の方々が一緒にニコ動で発信される意義は大きい。

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