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2月7日:レット症候群の新しい治療戦略の可能性(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2017年2月7日
   レット症候群はメチル化された DNAに結合して遺伝子転写を調節するMECP2遺伝子の機能喪失突然変異により起こる病気で、女児にのみおこる。というのも、MECP2遺伝子はX染色体上に存在し、X染色体を一本しか持たない男性で突然変異が起こると、発生できず生まれてこない。一方、女性の場合一本のX染色体で突然変異が起こってももう一本の染色体が残っているのだが、X染色体不活化と呼ばれる現象により、病気が発症してしまう。このX染色体不活化は、発生途上で片方のX染色体上の遺伝子をほとんど発現できない様にするメカニズムで、これによりX染色体が一本の男性と、2本の女性での遺伝子発現量を同じレベルに保つことができる。このため、女性の体は、いずれかのX染色体が不活化された細胞が混在しており、片方に突然変異があると、突然変異を持つ細胞と持たない細胞の両方の細胞により組織が形成される。この結果、突然変異は片方の染色体のみにあっても、組織には遺伝子欠損細胞が存在することになり、組織の機能が維持できなくなる。
   今日紹介するシアトルのフレッドハッチンソンガンセンターからの論文は不活化されたX染色体を再活性化する方法の開発についての研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Screen for reactiveation of MECP2 on inactive chromosome identifies the BMP2/TGF-βsuperfamily as a regulator of XIST expression(不活化されたX染色体上のMECP2遺伝子を再活性化する遺伝子スクリーニングによりBMP2/TGF-βファミリー分子がXIST発現の調節因子として特定された)」だ。
   この研究では、MECP2遺伝子に光を発するルシフェラーゼ遺伝子と薬剤耐性遺伝子を融合させたX染色体を持つマウスから融合遺伝子を持つX染色体が不活化された線維芽細胞株を樹立し、薬剤耐性と発光を利用してX染色体の再活性化をモニターしている。
   次にこの細胞に60000種類のshRNAを導入して様々な分子をノックダウンして、X染色体再活性化に関わる遺伝子をスクリーニングし、30種類の分子を特定している。この中には当然、X染色体不活化に関わる分子群が存在しており、例えば不活化の鍵XISTをノックダウンすると染色体は再活性化する。
  この研究のハイライトは、スクリーニングにより、BMP2シグナル伝達経路に関わる分子が、Rnf12と呼ばれるユビキチン化酵素を介してX染色体不活化に関わることの発見で、このシグナルを抑制することで患者さんのX染色体を再活性化して、正常のMECP2を組織で発現させる可能性が生まれた。
   この研究はここで終わっており、実際にモデルマウスの治療実験には踏み込んでいないが、BMP2シグナルを特異的に抑制する薬剤はおそらく存在しており、今後それを使った前臨床研究が行われるだろう。すなわち、遺伝子治療を待たなくとも、薬剤でMECP2遺伝子発現を正常化させる可能性が生まれた。是非期待したい。

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