AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月21日:病原性大腸菌の病原性を探る(2月16日掲載論文)

2月21日:病原性大腸菌の病原性を探る(2月16日掲載論文)

2017年2月21日
SNSシェア
    ほとんどの大腸菌は病気の原因になることはないが、毒性の遺伝子を獲得した種は出血性大腸炎などを引き起こす病原性株へと転換する。この病原性獲得に関わる遺伝子クラスターは詳しく研究されており、病原性大腸菌の腸上皮への結合、毒性に関わる様々なエフェクター分子の腸上皮への注入、そしてその毒素の作用として微小絨毛の消失の誘導や、菌が結合しやすいようアクチンの構築変化など、腸上皮細胞が変化するまでの一連の過程に関わることが知られている。しかし、上皮に結合した菌がエフェクター分子を作り続け、また腸上皮に注入し続けるメカニズムについては不明な点が多かった。
   今日紹介するエルサレム、ヘブライ大学からの論文はこのメカニズムについての研究で2月16日号のScienceに掲載された。タイトルは「Host cell attachment elicits posttranscriptional regulation in infecting enteropathogenic bacteria (ホスト細胞への結合が、感染した大腸病原性バクテリアの転写後調節を誘導する)」だ。
   この論文を読んで、病原性大腸菌についての知識を私自身全く持ち合わせていなかったことを認識した。この研究は、病原性に関わる重要分子NleAの大腸菌での発現を維持する仕組みを明らかにする目的で行われていたと思う。NleA遺伝子が翻訳されるときにGFP蛍光分子と融合してNleAの翻訳量がわかるようにした大腸菌をHELA細胞と共培養すると、細胞に結合した大腸菌だけが蛍光を発することを見出す。すなわち、ホストの細胞とコンタクトした大腸菌だけがNleAを産生し続けることが明らかになった。
   研究では様々な大腸菌の遺伝子操作をして、このメカニズムを解析している。詳細を省いて結果をまとめると、
1) NleA遺伝子のmRNAの5’非翻訳領域にNleAの翻訳を調節する領域が存在し、この部位にCsrA分子が結合すると、翻訳が抑えられる。すなわち、NleAの翻訳は通常CsrAにより抑えられているが、ホスト細胞と結合することで、CsrA活性が低下し、NleA分子の翻訳が起こる。
2) CsrA活性を誘導するホスト細胞との接着によるNleA翻訳は、大腸菌表面に発現しているT3SSを欠損すると消失する。また、T3SSが自然に活性化してしまう突然変異では、ホスト細胞との接着なしにNleAが発現する。すなわち、T3SSがホスト細胞のセンサーとして働いている。
3) T3SSはCesT,CesFなどのシャペロンに助けられ、大腸菌の様々な毒素をホスト細胞へ移行させる。このCesTはT3SSから離れるとCsrAと結合することで、CsrAの活性を低下させ、NleAの転写が上昇する。
4) 同じT3SS-CesT-CsrAの仕組みを190種類の分子の翻訳が共有しており、有名な病原性大腸菌O157にはこのうち150種類が存在すること。
を明らかにしている。
   以上の結果から、病原性大腸菌が腸上皮細胞とコンタクトしたときだけ、急速に毒素の翻訳をし続けることができるメカニズムが解明された。読んでみると、不自由なゲノム構造の中で、極めて効率的な仕組みが進化していることがよくわかった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.