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3月3日:遺伝子内のメチル化の機能(Natureオンライン版掲載論文)

2017年3月3日
     私が現役の頃は、DNAのメチル化というと、もっぱら転写調節や染色体構造を変化させるためのメカニズムとして考えてきた。また、新しい場所をメチル化する酵素Dnmt3aとDnmt3bは同じようにDNAメチル化に関わると考えていた。しかし最近になってこの考えは変わりつつある。一昨年1月、Dnmt3bは転写が活発に起こっているH3K36me3型の修飾を受けたヒストンが結合する遺伝子内の領域に特異的に結合することが、スイス・ミーシャー研究所のグループによりNatureに報告され、このホームページでも紹介した(http://aasj.jp/news/watch/2787)。
   今日紹介するイタリア・トリノ大学からの論文は、Dnmt3bによるメチル化の機能の一端を明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された(doi:10.1038/nature21373)。タイトルは「Intragenic DNA methylation prevents supurious transcription initiation(遺伝子内のDNAメチル化は誤った転写開始を回避する)」だ。
   環状DNAを持つバクテリアもDNAメチル化が維持される。ただ、バクレリアを含め遺伝子内のメチル化は機能が明確でなく、複製の調節など様々な可能性が示唆されていた。このグループは、Dnmt3bが遺伝子内のメチル化に関わること、転写が活発な領域に関わることから、本来の転写開始点とは異なる場所からの転写を抑制するのではないかとあたりをつけていたようだ。
   まずこれまでの結果を確認する意味で、Dnmt3bノックアウトES細胞を用いて遺伝子内のメチル化が特異的に低下しているのを確認した後、実際の転写産物を詳しく解析すると、Dnmt3bノックアウトES細胞では多くのmRNAが遺伝子内から転写される異常RNAであることを発見する。
   次にこれがRNAポリメラーゼが誤った開始点に結合する結果であることを知るため、クロマチン沈降法でRNAポリメラーゼ結合部位を調べ、予想通り遺伝子内にポリメラーゼが結合していることを示し、この開始が通常の塩基配列ルールに従わないことも明らかにした。すなわち、遺伝子内メチル化により、RNAポリメラーゼが間違った場所に結合しないようにするのがDnmt3bのメチル化の機能になる。
   次に以前遺伝子内メチル化との関係が示されたH3K36me3型ヒストンと遺伝子内転写開始との関係を調べるたヒストンメチル化に関わるSetD2をノックダウンすると、H3K36me3が低下するとともに、Dnmt3bの遺伝子内結合も消失し、遺伝子内からの転写が上昇することを明らかにしている。
   後は詳細を詰めるため、Dnmt3bの酵素活性との関係、異常RNAの運命、翻訳の可能性などを調べているが、紹介は省いていいだろう。
   これらの結果から、遺伝子内メチル化は転写の正確性を保証する重要な機能であることが明らかにした。実際、これがうまくいかないと、当然異常たんぱく質が増える。またH3K36me3型ヒストンの役割、及びこの異常がガンで見られることなどについての頭の整理がしっかりついた。
   現役をやめる前後、エピジェネティックスに関するさきがけ研究のアドバイサーを務めたが、当時から3−4年でこの分野の理解度は急速に高まっている。着実にエピジェネティックスの詳細が一枚一枚衣を剥ぐように明らかにされていくのが実感される今、あの時のメンバーたちは何をしているのか、一度同窓会ででも話を聞きたいと思った。

  1. 橋爪良信 より:

    西川先生、
    いままさにPRC2-EZH2, PRC1とガンについて議論しております。

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