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3月7日RAS阻害剤を設計する(2月23日号Cell掲載論文)

2017年3月7日
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    将来のがん化学療法が成功する鍵はRAS阻害剤が開発できるかどうかにかかっている。これまで何度も紹介したように、半分以上のガンでRAS分子の突然変異がドライバーになっている。このことがわかっていながら、RASの機能部位が凸凹のないのっぺりとした表面を持っているため、機能を阻害する分子を探索するのは難しかった。
   今日紹介するコロンビア大学からの論文はこの厄介な変異RASに対して一定の阻害効果がある化合物を設計することができることを示した研究で2月23日号のCellに掲載された(http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2017.02.006)。タイトルは「Multivalent small-molecule pan-ras inhibitor(RASの複数の部位に結合する全RAS阻害剤)」だ。
   著者らは、一箇所のRASの活性部位を標的に化合物を探索する今までの方法では実用的な化合物は発見できないと考え、代わりにRASの構造解析に基づき、RASが活性化されると構造が変化する複数の部位に同時に結合する化合物を設計することを試みた。詳細は調べていないが、おそらく各部位に結合できる小さな化合物をデータベースから抽出し、それらを一つの分子に設計し直して合成する、完全にコンピュータだけで化合物を設計している。
   もちろん論文として発表しているわけで、あとはこの化合物(3144)が期待通りの効果を発揮したことを示す実験が続いている。
   まずRASタンパク質と3144が試験管内で、比較的高い結合力で結合することを確かめた後、RASが活性化している様々な細胞株の増殖を抑制するとともに、確かに活性化RASを特異的に阻害していることを生化学的に示している。
   最後に、3144が経口を含む全てのルートの投与で血中濃度が上昇し、移植したガンの増殖を抑制できることを示している。
   以上の結果から、コンピュータによる分子設計を用いればRASに対する阻害剤を設計することができ、得られた阻害剤3144は全ての活性化RASを阻害し、実際のガン細胞の増殖を抑制できる。また、この化合物は薬剤として利用するための十分な体内動態を示すと結論されている。
   実際のデータを見ると、副作用はともかくとして、実際のガンモデルに対する効果はまだまだ限界があるように思える。従って、さらに化合物の特性を至適化する作業が必要だが、もしうまくいけば大ヒット商品というだけでなく、多くの患者さんの期待に応えられるだろう。
   最近、化合物を直接スクリーニングする代わりに、小さな分子と標的分子との結合を調べた上で、大きな分子に設計し直す手法で成果が生まれ始めた印象を持つ。ひょっとしたら、今後の創薬のあり方を変えるかもしれないという予感がする。
  1. 橋爪良信 より:

    西川先生、
    ここは我々創薬プログラムにお任せください。

    1. nishikawa より:

      昔創薬プログラムで議論していたのを思い出しました。

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