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5月3日:自閉症と健康 II(Autism Speaks 特別レポート)

2017年5月3日
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今回は「自閉症と睡眠」と「自閉症と食事」についてレポートの内容を紹介する。

III 自閉症と睡眠障害

  最近の論文によると、自閉症の人たちの半数が、寝つきが悪い、なんども目がさめる、朝起きるのが極端に早いなどの睡眠障害を持っている。これに昼間の行動障害が加わり、学習を妨げ生活の質を落としてしまう。
   同時に睡眠障害の子供を持つ親も、徘徊して事故が起きるのではと、睡眠が障害され、強いストレスにさらされている。実際、4歳を超えると徘徊による事故は命に関わる。
   自閉症に伴う睡眠障害は病気として捉える必要がある。例えば自閉症の場合概日周期(夜と昼のリズム)に関わる遺伝子の変異する確率が2倍高い。   就寝中に起こるてんかん発作で睡眠が妨げられている場合があること、自閉症の人の11-40%が様々な不安障害を抱えていること、も知られており、これが睡眠障害の原因になることを念頭におく必要がある。
   脳波を調べる睡眠相の研究も行われており、自閉症の場合動眼神経が活動するREM睡眠の比率が少ないことがわかっている。このレポートではREM睡眠をそのまま夢を見ることと関連させているが、最近の研究ではREM=夢という通説は間違っていることがわかっており、頭頂後頭皮質のような夢中枢の研究が今後必要になると思う。
他にも、メラトニンの分泌が少ないなど研究は着実に行われている。もしこの結果が正しい場合、メラトニンの投与は治療のための選択肢になる。
現在睡眠障害の治療として期待されているのは、バンダービルト大学で開発された、自閉症児の親に対する教育プログラムで、ワークショップでは、両親に日中の運動とアウトドアでの活動の重要性を説き、子供が決まった時間に就寝し、途中で起きてもすぐに寝るための様々な方法を教えている。ワークショップ参加者の声から判断すると、このプログラムは効果があるようで、同時に両親もストレスから解放されることができたと述べている。

IV 自閉症と摂食障害


   最近の総説論文によると実に70%の自閉症スペクトラムの子供に何らかの摂食障害が見られ、36%は重い摂食障害と診断される。
   限られた種類の食物や、特定の色や口当たりの食べ物しか口にしなかったり、食事を中断するなどが症状になる。ただ、全てが精神的な症状ではなく、例えば運動障害によって咀嚼や嚥下機能が低下していたり、胃から腸への排出が遅れたりする場合もある。
以上は摂食障害(feeding disorder)だが、食欲や食行動の異常(eating disorder)、すなわち食べなかったり食べ過ぎたりする行動異常もしばしば見られる。
慢性的な過食症は、子供だけでなく、成人しても見られる異常で、満腹感が低下していることが多い。また、自閉症児は食物の匂いや口当たりに感受性が高く、その結果決まった高カロリー食品を偏食することになる。この場合、肥満になるだけでなく、栄養素によっては不足することになる。自閉症治療に認可されているリスペリドンも食欲増強作用があるので注意する必要がある。
異食症
  食べ物とは言えない様々なもの、例えば釘、ガラス片、時には壁から禿げた塗料や消毒材など、を口に入れる異食症は、知的障害を持つ自閉症児にとっては命に関わる重大な事故につながり、最も注意の必要な症状になる。
  幸い、行動治療の効果が出ると、異食症も改善する。
   最近アトランタの自閉症センターから、異食症を改善するプログラムが発表されている。このプログラムでは、セラピストが自閉症児に、問題となる様々なものを示し、子供が避けると褒美を与えたり、興味を違う対象に向けさせたり、間違ったものを食べるのを止める気持ちをもたせたりするセッションを繰り返す。必要な場合、なんと87セッションが行われる。
   現在短期効果については確認されているが、長期効果がわかるためには今後の追跡調査が必要。
摂食障害対策
  家庭で対応しきれないことが多い。このレポートでは、医師、栄養士、介護士からなるチームによる、食生活の診断、それに基づく治療プログラム作成、そして児童に対する個別指導などの必要性が強調されている。
  特に、
1) 野菜、果物、タンパク質など、どれかを完全に避ける、
2) 特定のブランド、あるいは特定の形や色の食品しか食べない、
3) 食べさせようとすると、口を閉ざしたり、嘔吐したり、食事を中断する。
4) 食べ物に興味を示さない。また褒めても反応しない。
5) 専門家により咀嚼などの運動障害があると診断される。
6) 専門家により栄養不足と診断される。
などの項目の2つ以上が認められるときは、治療が必要。
過食症:
   最近の研究によれば、過食は早期から始まり、2−5歳の自閉症児の16%が肥満であることが明らかになった。これは正常児の10%と比べると明らかに高い。原因か結果かは明らかでないが、過食児の多くは、複数の向精神薬を服用している場合があり、専門家とよく相談して治療方針を決める必要がある。
   治療としては、偏食を治し、量を減らし、エクササイズを進めるといった一般的な方法しかない。冷蔵庫や食べ物の保存場所に鍵をかけるのも対策の一つになる。自閉症を持つ家族のためのマニュアルが公開されており、この利用も対策の一つになる(我が国の状況は把握できていない)。
問題は、アウトドアでのエクササイズといっても、自閉症児には難しいことが多い点で、これがもとになって、両親のストレスが増えるようでは元も子もない。行動異常や知的障害のある子供達も可能なメニューの開発が望まれる。

最終回の明日は精神的な問題について紹介する。
  1. 鈴木 恵美 より:

    記事をよんでびっくりしました。うちの娘(23歳)の症状と同じかたがいるんですね。小さいころからこだわりや不安が強くなかなか大変でした。胃腸が弱く13才のとき食事ができなくなり摂食障害と診断されさまざまな病院(閉鎖病棟なども)で治療をうけましたが、改善されず、やっと最近になって自閉症スペクトラムと診断さるました。そして、ちょうど1年前に脳出血を起こしてしまいました。それとこれとは関係あるないはわかりません。幸にもそちらの後遺症はほとんどありませんが、オスラー病の遺伝子解析中でもあります。本人はその手術後始めた仕事が今楽しくて、なんとか体力をつけたいから頑張ろうとしてはいますが、現在でも食べて嘔吐や下痢をしてしまい、ジリジリと衰弱してきてしまっている状態です。そして、精神科心療内科に一応かかってはいますが、なかなかこの記事のような内容までは、(内科まではあまり詳しくないのか)連携できず、なかなか上手く伝わりきりません。どんな病院の何科でかかると内科的にも精神的にもいろんな視点から上手く連携して相談に乗っていただけるのでしょうかー?可能であるなら、何か情報の得方を教えてください。
    八方塞がりな今、こんな記事を見かけることができたので、諦めずに何かどうにかみつからないかとこれからも模索します。涙

    1. nishikawa より:

      論文を紹介していても、専門でもなく、現役でもないので、どこで相談できるのかについてはよくわかりません。
      ただ、私の京大時代の同級生が70近くなっても京都で自閉症児の専門医をやっているので紹介することができます。ただ、小児科ですが。
      我が国では自閉症の患者さんの団体はないのでしょうか。こんなことも知らないで申し訳ありません。

  2. 鈴木 恵美 より:

    返信本当にありがとうございます。
    ご丁寧なお返事いただけると思っていませんでしたので驚きと嬉しさでいっぱいです。
    お知り合いの先生とお話し出来ましたら嬉しいです。ただこちらは東京の府中市に住んでおりますことと、
    ここ何日か非常に全身状態が悪くどうしたものか、思案しております。娘が十代の頃とちがい自閉症などの理解が深まってきていて新しい治療などもあるようですが、いずれも18歳以上は診療対象にしていただけません。京都の先生はいかがでしょうか。
    年齢によって対象が限られるとしたら、娘の年齢が23歳だとご相談にのっていただくのも難しいでしょうか…。
    先生がもし可能であれば、少しお話しだけでも伺えたら非常にありがたいです。
    いつかまたお返事頂ければ幸いです。
    お忙しいところありがとうございました。

  3. T.K. より:

    大変心配ですね、私の息子も半年前から食べたらコップに吐いています。小さい時から児童福祉センターに通い先生が異動し精神科思春期外来に行っています。薬の副作用か?わかりませんが悩んでいます。お互いつらいですが息子の前では、笑うようにしてます。ぼちぼちですね。

    1. nishikawa より:

      外国にいたため、返事が遅れました。わたし自身は、臨床家でないので無力ですが、是非このレポートにあるように、わが国でも総合的治療が受けられる体制を早く作って欲しいと思います。結局、国を動かすのは、患者さんや家族です。一度私のNPOでも番組を作って、皆さんにYou Tubeで提供できるか考えてみます。

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