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5月19日:視覚情報とイメージのカテゴリー化の関係(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2017年5月19日
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   きわめて単純化していってしまうと、網膜で形成された視覚情報は視床の外側室状態を通って様々なモジュールに変換され、そのまま後頭部の一次視覚野に入って像を形成する(一次視覚野が障害され、見えているとは自覚していないのに見える盲視に見られる様に、実際の経路は単純でない)。その後、一次視覚野からの情報は記憶されたり、他の情報と統合されたりと、様々な領域に送られるが、見ているものが何かをカテゴリー化するのに関わる経路は腹側側頭皮質野であることがわかっている。すなわち顔を見ているのか、景色を見ているのかを意識するにはこの領域が必須だ。
   一方、私たちの認識は大きく視覚に依存しているが、生まれつき目の見えない人は、同じカテゴリーを他の感覚入力から形成する必要がある。この様なカテゴリー化にも、腹側側頭葉が関わっていることが知られている。この領域の活動法則を知ることは、カテゴリー化とは何かを知るために重要な課題だ。
   今日紹介するベルギーのルーベン・カソリック大学からの論文は腹側側頭葉でのカテゴリー化が全く視覚情報とは独立して行えるのか、あるいは視覚、聴覚それぞれの感覚は別々にカテゴリー化されるのかを、生まれつき目の見えない人を選んで調べた研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Development of visual category selectiveity in ventral visual cortex does not require visual experiencee(腹側視覚野での視覚カテゴリーの選択制の発達には視覚経験は必要ない)」だ。
   この研究では、発生過程の障害のため、生まれつき目の見えない人を選んで調べることで、視覚刺激が全く存在しないという状況でカテゴリー化を調べている。では、生まれつき目の見えない人に、顔、体、景色、物などのカテゴリーをどの様に認識してもらうかだが、この目的で、顔のカテゴリー化には笑い声や口笛など顔を思い浮かべる音、体のカテゴリー化については手を叩いたり指を鳴らす音、景色のカテゴリーについては波の音、物のカテゴリーについては車や機械の音と、日常自然に存在して、明確にカテゴリー化できる音を聞かせている。
  研究では、正常人には、ビデオ画像によるカテゴリー化、音によるカテゴリー化を行ってもらう一方、視覚が欠損した方には音刺激でカテゴリーを思い浮かべてもらい、その過程を帰納的MRIで調べている。
   結果だが、正常人が様々なカテゴリーの画像を見た時に活動する腹側視覚野部位は、カテゴリーごとに分離しているが、目の見えない人が画像に対応するカテゴリーを音を聞いて判断している時も、同じ領域が活動する。ただ、この領域がカテゴリーをトップダウンで決める領域でないことは、正常人が音を聞いてカテゴリーを判断する時に活動する領域が異なっていることからわかる。
     わかりやすく言うと、視覚刺激の競合がない時だけ、腹側視覚野を使って同じ様に音刺激をカテゴリー化している。この結果に対応し、目の見えない人は、音の刺激から得られるカテゴリーを一次視覚野で区別していることも明らかになった。一方、一次聴覚野でのカテゴリーの分離は正常人でははっきりと見られるが、視覚の欠損した人では、依存性が強くないことも分かった。すなわち、必要に応じて自由に感覚野を使い分けている。なかなか面白い。
   素人なりに考えると、視覚野も聴覚野という単純な区別も本当は必要なく、一次感覚野はインプットに応じて自由に再構成できている。実際、目に見えない人が何を感じているのか、正常人もイメージを共有する日が来るのも近い様な気がしてきた。

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