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ガン・ゲノム研究から治療へ。(11月8日Nature掲載、オリジナル)

2013年11月8日

進化論が正しいかどうか、キリスト教原理主義の方々は信じないそうだが、ガンの進展過程を見ていると、ダーウィンの考えたのと同じ進化が起こっている事を実感する。最近特に、ガンのゲノムの研究が進展し、標的分子を抑制する治療が可能になっても、ガンが進化して新しい変異を発生させ薬が効かなくなると言った状況を目にすると、特にこの融通無碍なガンの進化能力に驚く。しかし驚いているだけでは、ガンと戦えない。ガンの進化はどんな遺伝子変異を原動力として進むのか、なんとか見つけて、先回りしてガンの進化を阻止できないか、今そんな研究が進んでいる。今日紹介するのは、最新号のNatureに掲載されたハーバード大学の研究で、「A melanocyte lineage program confers resistance to MAP kinase pathway inhibition(色素細胞分化のプログラムがMAPキナーゼ経路阻害の抵抗性を与える)」というタイトルがついている。少し説明がいるが、色素細胞が腫瘍化すると悪性黒色腫と呼ばれる。英国の研究により、悪性黒色腫の半分以上がB-RAFと呼ばれる遺伝子に突然変異を持つ事が明らかにされた。その後、変異遺伝子の機能を押さえる薬品が開発され、現在この病気の特効薬となっている。うれしい事に、日本の京都府立医大発の薬品も、B-RAFそのものではないが、同じシグナル経路を遮断する薬として利用されるようになっている(残念ながらイギリスの製薬会社が権利を買っているようだ)。
   この研究では、悪性黒色腫に15000以上の遺伝子を発現させ、B-RAFから下流のシグナルを遮断する薬品に対する耐性の原因になる分子をリストした。最終的に、100種類以上の分子がリストされて来たが、その中でこのグループが注目したのは、GPCRと総称される受容体(実際には数多くあり、メラノーマではどの分子かははっきりしない)からcAMPへと続くシグナル伝達系だ。実際この経路に位置する多くの分子がガン細胞を薬剤耐性にする。さらに、この経路を活性化する薬を細胞に加えると、薬剤耐性になる。この論文ではこれらの結果から、治療に抵抗性になった悪性黒色腫に対する次の一手についても幾つかの可能性を示唆している。例えば、HDACと言われる分子の阻害剤が効きそうだと予言している。勿論、実際の臨床例でこの一手が有効かどうか確かめなければならない。ただ悪性黒色種になった患者さんが是非注目して欲しいのは、研究のスピードだ。まず、悪性黒色腫の原因遺伝子としてB-RAF突然変異を特定した論文の発表が2002年、2012年にはB-raf及やそのシグナル経路のMek阻害剤が実用化され、2013年のこの研究で薬剤耐性を獲得したガンへの新しい対応が提案されている。楽観的に考えると、本気になれば今の医学は患者さんの期待に答えて、十分なスピードでガンを克服する方法が開発する力がある。勿論、ガンも進化するから、そう簡単に負けていないだろう。しかし、知恵競べを私たちが制するチャンスも十分ある事を実感した仕事だ。是非一刻も早く、医学が勝利した事を見せて欲しい。


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