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6月8日:ガラパゴス小羽鵜が小羽になったメカニズム(6月2日号Science掲載論文)

2017年6月8日
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   ガラパゴス諸島を訪れて最も驚くのは、動物や鳥が人間をほとんど恐れないことだ。恐れないというか、ほとんど景色と同じように見ているのではと錯覚する。喧嘩を始めたシギに近づいても、喧嘩に夢中で手がとどく距離まで近づいても、私は全く眼中にない。他では得難い感激だ。
   ガラパゴスは、南米から飛行機で1時間半ぐらいかかる全く孤立した島々で、多くの固有種が存在する。その中でガラパゴス小羽鵜は、名前の通り羽が小さく退化して飛べなくなった鵜だ。なぜこんな進化を遂げたのか不思議に思うが、ガラパゴスに行って、天敵がいないこと、食べ物が豊富なことを実感すると、泳ぐのに邪魔な羽はなくしても問題ないと納得できる。
   今日紹介するUCLAからの論文はガラパゴス小羽鵜の全ゲノムを解読し、小羽になった進化過程を推察した研究で6月2日号のScienceに掲載された。タイトルは「A genetic signature of the evolution of loss of flight in the Galapagos cormorant (ガラパゴス小羽鵜が飛行能力を失った進化の遺伝的特徴)」だ。
   別に飛ばなくなった鳥は珍しくないが、例えばペンギンでは種が分離して5千万年なのに、ガラパゴス小羽鵜はまだ200万年しかたっていない。すなわち、羽が短くなる遺伝的原因だけが強調されている可能性がある。
   この研究ではガラパゴス小羽鵜とともに近縁のほかの鵜の全ゲノムを解読し、ゲノムの比較を通して、その中で骨格変化につながる遺伝変異を探している。
   まず他の鵜との関係だが、南米に住む種類に最も近く、まだ分離して230万年程度だ。一方、日本の鵜と比べると分離して2000万年が経っている。飛ばなくなってガラパゴスに隔離されているため、遺伝子の多様性がなく、日本のトキ以下だ。すなわち、常に絶滅の危機にさらされていると言っていい。
   さて、南米種と比べた時に、羽の大きさに関わる遺伝子が見えてくるかどうかだが、分子機能に変化が起こったと考えられる11種類の繊毛形成、上皮細胞極性に関わる遺伝子を特定し、またそれぞれの遺伝子について人間でも骨格異常がおこる突然変異が見つかっていることを示している。繊毛はshhシグナルに必須の細胞構造で、おそらく繊毛形成や上皮極性異常により骨格形成に必須のシグナルshhがうまく働かないようになったことが、羽が退化した一つの原因であるとしている。実際、ガラパゴス小羽鵜で見つかった変異が、機能異常を引き起こすか、線虫を使って確かめているが詳細はいいだろう。人間でも普通に見られる骨格変化の突然変異がガラパゴス諸島では選択されたことになる。
   これらの遺伝子以外にも、もう一つCux1と呼ばれる転写因子の変異についても調べており、この変異によりやはり繊毛形成や上皮細胞極性に関わる遺伝子の転写が低下するとともに、この変異があると軟骨細胞が骨芽細胞で置き換わらず骨が伸びないことも示している。
   分離して200万年ぐらいだと、確かに最もらしい変異が多く見つかると感心するが、これがコーディングエクソンにこれほどクラスターしているのには驚く。進化はまず、転写調節の変化から始まると思われているが、コーディング変異が集まることの重要性を明確にした点では重要な話だと思う。ただ証明のためにこれ以上の検証は簡単ではないなと思う。あとは、見つかった変異を他の鳥に導入して調べるほかないだろう。ゲノムの後は実験進化研究が必要だとすると先は長い。

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