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7月2日:The HUMAN(Human Understanding through Measurement and ANalysis) Projext がついに始動する:AIの前に必要なこと(6月4日NY Times記事を見て)

2017年7月2日
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1ヶ月前になるがNY Timesに2014年から準備が続いていたthe HUMAN Projectが今年の秋から参加者を集め始めるという記事が出ていた。
NYに住む10000人の市民を20年にわたって記録し続けるというこれは2014年から準備が進む、壮大なプロジェクトで、21世紀のAIが目指す方向性を具現している優れたプロジェクトとして注目していたので、実行計画書について紹介することにした。
   このプロジェクトの目標は、4000家族、一万人のニューヨーク市民の行動、身体記録、ゲノムなどの情報を20年にわたって追跡する挑戦的な計画だが、最大1000万ドルで遂行可能としている。
  まず、ゲノム、口内、腸内細菌叢、健康情報などの生物学的情報、主にスマフォを介した経済活動、教育、コミュニケーションなどの行動情報、そしてGPSの位置記録と、既存のデータベースをリンクさせた環境情報の3種類の情報を、人間という生物の情報として日々記録しようとする計画だ。
   今我が国でも今AI・・と騒がれているが、AIも記録がないと意味がない。我が国ではAIの必要性を自動運転を象徴としたIoT、物がネットでつながる世界を開く技術として主に宣伝されている。しかし、これは人間の活動のあくまでもネガ・影のようなもので、人間自体の記録ではない。
   これに対し、AIが本当に必要とされるのは、人間自体の記録であることを明確に表明したのがこのプロジェクトだ。
   最初計画がアナウンスされてからこれまでほぼ3年にわたって準備や議論が進められているが、個人的には計画倒れで終わるのではと心配していた。というのも、経済活動、行動も含め全ての記録を個人から集めることのハードルは高い。
   例えば私がどのインターネットサイトを見ているか、フェースブックの誰とつながっているかを調べるだけで政治信条がわかる。例えば、前川問題からわかるように、国家の秘密は守っても、個人の秘密はリークするような今の我が国政府が呼びかけたとき、本当にこのようなプロジェクトに参加する気になるだろうか。この研究は、私的な財団とNY大学が遂行しているが、それでも全てをさらけ出すことの危険を感じる人は多い。
   このプロジェクトは、この問題もテーマにしてしまっている。完全に匿名化したデータベースをどう構築するか、どうセキュリティーを守るかなど、市民が信頼し、また参加者がリスクを知った上でそれでも価値を認めるデータベースを示すことをプロジェクトの目的にしている。このためには、市民の政府や自治体への信頼がまず不可欠になる。
   驚いたのは、セキュリティーを確かめるためのハッキング会社まで雇って、持続的にセキュリティーを確認することまで書き込んでいる。
   このプロジェクトでは、このような記録により、
1)老化と認知機能の低下の把握、
2)食事など生活習慣と健康、
3)ゲノムなどの生物情報と行動との統合、
についてこれまでになかった知見が得られるとしているが、もし成功したらこんな程度で終わらない。
   私の頭で考えても、リアルタイムの経済予測、精神疾患と環境、政治信条と行動など、これまで評論家という人たちが思いつきで語ってきたようなことが、実際の記録に基づいて予測することができるようになると思う。
すなわち、個人の情報を集めて様々な歴史が書ける時代がくる。
   このようなプロジェクトは、21世紀人間が情報化した新しい状況が生まれていることの理解なしには出てこない。人間が情報化しているのはとうにわかっているという人も多いだろう。しかし、情報化とは、リアリティーとしての私が消滅した後も、情報化された私が残るということだ。しかも、騙せない情報。ゲノム、医療情報、スマフォやGPSによる行動記録、経済活動などが残るということだ。
   このようにリアルな人間が情報化し、しかもネットワークで結ばれた時代は、IoTではなく、IoH(human)の確立から始める必要がある。その時、匿名化されるとはいえ個人データを提供してもいいと考えられる信頼できる政府かどうか、まずそこから各国のAI研究力の差が生まれるだろう。いずれにせよ、この秋NY市民がどのような答えを出すのか、注目してみていきたい。

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