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7月6日:コロンブスの卵と言える発想の転換(6月29日号Cell掲載論文)

2017年7月6日
次世代DNAシークエンサーは、解読したいDNA断片をスライドグラスの上の微笑スポットに補足して、その場所で増幅し、伸長反応を進めることで塩基配列を決めている。すなわち、何十万もの小さなスポットで起こる反応を個別に読み取って大量のシークエンスデータを集める。解読が終わると、何十万もの異なる配列を持った増幅されたDNA断片が張り付いたスライドグラスが残ることになるが、すべて廃棄されていた。
   今日紹介するテキサス大学からの論文はこれまで廃棄されてきた、配列が解読されたDNA断片が張り付いたスライドグラスを、DNA結合分子の反応を調べるために再利用するという素晴らしいアイデアを示した研究で6月29日号のCellに掲載された。タイトルは「Massively parallel biophysical analysis of CRISPR-Cas complexes on next generation sequencing chips(次世代シークエンサーチップ上でCRISPR/Cas の複合体の生物物理的解析を超大規模に行う)」だ。
   この研究ではCRISPR/Casシステムと標的DNAとの結合の特異性を調べているが、同じプラットフォームは核酸配列を標的とする様々な分子反応に利用できるだろう。
   研究ではまずCRISPR/Casとの反応を調べたい遺伝子配列(300bp程度)の異なるDNA断片を約40000種類合成、これをMiSeqを使って配列を決定する。そうするとすべての断片がスライドグラス上に捕捉され、配列が決まるが、反応が終わったDNA断片が載ったスライドグラスに、ガイドRNAと蛍光標識したCasを加えると、DNA配列がガイドと一致するスポットだけにCasの結合が見られることになる。この時すべてのスポットで蛍光の場所と強さを記録すると、何万、何十万種類の標的配列と、CRISPR/Casの反応を調べることができ、CRISPR/Casが働くためにはどの程度の配列の一致が必要かなどを網羅的に調べることができる。
   配列を決めれば捨てていたチップを、貴重な宝として蘇らせる発想で、言われてみれば当然だと思うが、これを発想したことに本当に感心する。
   もちろん発想が正しいことを示すため、この方法を用いて、ガイド配列の条件、ガイドに続くPAM配列の条件などをすべて明らかにし、また得られた各配列のチップ上での反応性と、それを用いた遺伝子編集効率が相関することも示している。そして最後に、人間のエクソーム配列決定を行ったチップ上でCRISPR/Casを反応させ、どの遺伝子がoff-target標的になってしまうかも示している。
予想以上の結果で、今後遺伝子編集を行う時、CRISPR/Casシステムの特異性を前もって調べるための方法として広く用いられるだろう。
  これまでDNAを標的とする分子反応の測定にはEMSAとか CHIPとか、様々な方法が開発されてきたが、この方法はそれらを置き換えるポテンシャルがある。もちろん、転写調節や、エピジェネティックスなど他にも様々な分野に応用できるjことも容易に想像できる。新しい材料を開発しなくても、発想の転換だけで新しい道を切り開けることを示した素晴らしい研究だと思う。

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