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8月30日:満腹と食べる喜びの脳科学(8月23日号Journal of Neuroscience掲載論文)

2017年8月30日
神が導く絶対理性が善悪を決めると考えられていた17世紀に、「善および悪の真の認識が感情である限りそれから必然的に欲望が生ずる」(岩波文庫「エチカ」、畠中尚志訳)と言い放ったのはスピノザだが、彼は人間の本能を理解することで、この欲望を克服する理性とは何かがわかると強調した人だ。

   現在の脳科学ではこの欲望と理性の関係についての理解が急速に進んでいる。(詳しく書く時間がないので是非JT生命誌研究館ホームページに書いた「快感原理」という記事を読んでみてくださいhttp://www.brh.co.jp/communication/shinka/2017/post_000010.html)。

今日紹介するフィンランド・トゥルク大学からの論文はピザと栄養ドリンクに対する脳の反応をPETで調べた研究で8月23日号のJournal of Neuroscieneに掲載された。タイトルは「Feeding releases endogenous opioids in human(人間では食べることで内因性の麻薬物質が分泌される)」だ。

私たちの快感を支配するのが、脳内で分泌されるエンドルフィンなどの内因性麻薬物質と、ドーパミンだが、この研究では脳内のμオピオイド受容体に結合する麻薬物質に焦点を当てて調べている。実験では正常ボランティアを、空腹時、楽しんで食べられる食事としてピザ、そして食べるだけの栄養飲料を与えた時の脳内での麻薬物質の分泌を調べている。方法だが、μオピオイド受容体(OR)に結合する合成麻薬カルフェンタニルをアイソトープで標識し被検者に投与してフリーのORの量を調べている。もし脳内で麻薬物質が出ておれば、フリーのORが減るため、アイソトープの脳内での結合が低下する。

質問票で被検者にピザか栄養飲料かどちらが満足したかを聞くと、期待通りピザでには喜びを感じるが、栄養飲料には喜びを感じないと全員が答えている。しかし、脳内麻薬物質の分泌を調べてみると、栄養飲料を飲むだけで、脳の広い領域で麻薬物質が分泌される。しかも、分泌量は栄養飲料を飲んだ時の方がピザを食べた時より多い。

快感や動機に関わる辺縁系を調べればもう少し違う結果になるのではと脳の領域ごとに調べているが、結局調べたすべての場所でただ食べるだけの方が楽しんで食べるより麻薬物質の分泌が高いことがわかった。

これが結果のすべてで、脳内麻薬物質の分泌は、満腹感と相関してはいても、喜びとは相関しなかったという結論になる。個人的には、麻薬物質の分泌で見る限り、無味乾燥な食事の方が麻薬物質の反応が強い点が面白いと思った。おそらく、この反応が本能的な食べる欲望で、理性の影響により少しづつ、満足や喜び、さらには節制まで進むことになる。今後この「満腹」「満足」「喜び」「節制」などの違いが徐々にわかるような予感がする。是非次はドーパミンの反応も調べて欲しい。

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