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8月31日:ヘモグロビンだけの詰まった赤血球がどうしてできるのか(8月4日号Science掲載論文)

2017年8月31日
今日紹介するハーバード大学からの論文は8月4日号の Science掲載で、少し古くなったが、是非取り上げたいと思って今日まで来てしまった。というのも、長く血液細胞の分化を研究してきて、一度も考えたことがない問題を扱っていたからだ。すなわち、なぜ赤血球にはヘモグロビン以外のタンパク質が存在しないのかという疑問だ。

哺乳動物の赤血球ではまず核が細胞外にはじき出されると、もはや新しいmRNAは作られなくなり、網状赤血球という段階に入る。もちろん核が存在しているうちに、GATA1を中核にした強い転写調節で多くのヘモグロビンmRNAを用意することはできる。しかし、網状赤血球として生存し翻訳を続けるにはヘモグロビンだけでは不可能で、多くのタンパク質が必要とされる。しかし、網状赤血球から赤血球に分化するときには、リボゾームを含めほとんどのタンパク質や核酸が綺麗に除去され、ヘモグロビンだけになっている。確かに、重要な疑問なのに、考えたこともなかった。

論文のタイトルは「UBE20 remodels the proteome during terminal erythroid differentiation(UBE20が赤血球分化の最終段階でプロテオームを再構成する)」だ。

このグループの専門は細胞内でのタンパク質分解機能で、もちろん最後のプロセスにはタンパク質のユビキチン化と分解が関わると目星をつけていた。中でも、貧血を引き起こす突然変異hem9がユビキチンか酵素の一つUBR20遺伝子の機能欠損突然変異であることを特定して、UBR20こそがタンパク質の大掃除に関わる主役であると確信したようだ。実際UBR20はヘモグロビンと同じようにGATA1で誘導され、赤血球分化で強く発現する。

この研究ではUBR20を欠損した細胞と正常細胞を比較しながら、

1) UBR20は様々なタンパク質に結合できるが、とりわけリボゾームタンパク質をユビキチン化し、翻訳を完全に止めること、
2) 通常ユビキチン酵素は基質を認識する分子と、ユビキチン化する分子に分かれているが、UBR20は両方が合体しており、これによりワンステップでタンパク質をユビキチン化すること、
3) ユビキチン化されたタンパク質はプロテアソームで分解されること。

などを明らかにしている。正直、この分子一つでよくここまでできるなと思うが、この分子がリボゾームのような大量の大型ゴミを処理しているうちに、残った酵素も使って隅々まで掃除が行き届くのだろう。いずれにせよ、転写調節の効かない赤血球分化で、あれほど大きなタンパク質の変化が起こるメカニズムはよく理解できた。

現在ユビキチン化を利用した創薬が加速していることを考えると、UBR20という特殊なタンパク質の構造は、この分野でも新しい可能性を教えてくれるかもしれない。

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