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9月22日:運動中に起こった心停止に対する最も普及したしかし間違った処置(Heart Rhythmオンライン版掲載論文)

2017年9月22日
限界で競技するスポーツは、常に事故や病気と隣り合わせだ。なかでも、心室細動による突然死は恐ろしく、できるだけ早く除細動で正常な心拍を回復させる必要がある。心臓の場合、3分放置するだけで死亡率は50%を超す。しかし、多くの場合適切な処置を受けることことができず、スポーツ中の心停止の死亡率は高い。

今日紹介するイスラエル・テルアビブ大学からの論文は、テレビ中継や個人用に撮影されたスポーツ中の心停止発作の映像を集め、発作直後に適切な処置が行われているか調べた研究でHeart Rhythmオンライン版に掲載された。タイトルは「Attempts to prevent “tongue swallowing” may well be the main obstacle for successful bystander resuscitation of athletes with cardiac arrest (心停止を起こしたスポーツ選手に対する周りの救命措置の失敗につながる最も重要な要因は「舌の沈下」を防ごうとする試みの可能性が高い)」だ。

この論文は1990年、多くの人が観戦していた大学バスケットボールの試合で倒れ、結局亡くなった選手が、最初の2分間、何の心臓に対する治療も受けていなかったという映像の反省から始めている。

実情を調べるために、試合中の発作に関する映像をできるだけ集め、その中で、1)発作を起こした選手の個人データが得られる、2)事故の場所と時間がわかる、3)発作後の処置について映像が存在する、の3条件を満たす映像を集め、1)発作時に周りにいた選手の行動、2)処置班の到着時間、3)最初の処置、4)心臓マッサージの開始、5)除細動器の使用の有無と使用時期、について分析している。

最終的に試合中に意識を失って倒れた28(女性は一人だけ、24人がサッカー選手)選手の分析を行っている。最終的に、15人(53%)は生存できたが、このうち後で心停止であることが判明した22人については8人(36%)の生存で、周りに多くの人がいても、死亡率が極めて高いことがわかる。

次に、周りの選手が取る行動だが、3秒以内に発作だと認識し、蘇生の試みが始まっているが、脈を調べて心停止を確認し、心臓マッサージを最初から行ったケースは全くなく、8例だけが1分程度経った後でようやく心臓マッサージを受けている。驚くことに、除細動器が使われたのはたった2例で、それも10分経過した後だった。

ではその間何が行われていたのか?映像を調べると、すべてのケースでいわゆる「気道確保」のため、口を開けさせ舌を引っ張り出すという操作にかかりきりで、脈さえ調べられていないことがわかった。実況放送中のアナウンサーも「チームメートと医療スタッフが集まって、舌沈下を防ごうとしているように見えます」(BBCスポーツ)と実況している。

実際には世界サッカー協会やアメリカ心臓学会が、スポーツ中の発作に対して心臓マッサージの重要性を説き、しかも選手の訓練すら行っているのに、ほぼ全例で舌の沈下を防ぐ処置に集中して貴重な時間を空費してしまっている現状から、発作に対してはまず気道確保のための舌沈下防止という神話を打ち壊すことが最も重要だと結論している。

気になって「運動中の心停止」で検索すると、我が国の場合まずAEDの有効性を訴えた記事がトップにくる。その後、東京消防庁の記事が来るが、ここでは心臓マッサージが呼吸確保より重要であることが明確に述べられている。一方次に来る福島県の広域行政組合のサイトでは、1)意識確認、2)救急とAED以来、2)気道確保、3)人工呼吸と心臓マッサージという順番が詳しく書かれており、この論文と同じ問題を抱える心配がある。

ビデオを集めることでこれだけの調査が可能であることがよくわかったが、スポーツの秋、できるだけ早く、脈で心停止を認識して心マッサージを始めることを中心にしたマニュアルを周知させる必要があるだろう。

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