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10月3日:子供の頃の記憶が正確でない理由(8月22日号米国アカデミー紀要掲載論文)

2017年10月3日
人間特有の言語は言うに及ばず、意識など高次脳機能の研究に動物を使うことは、課題の設定に多くの困難を伴う。とはいえ、脳の操作は当然のこと、脳の活動を記録するという観点から見ても、人間を使った研究は簡単ではない。このため、光遺伝学などを用いた脳操作全盛時代、どうしても人間を使った研究はかすんでしまう。そこで、今日から3日間、操作が難しい人間の記憶についての研究がどのように行われているのかを知るため、最近読んだ論文を3編紹介したいと思う。

今日紹介するドイツマックスプランク生涯心理学研究所からの論文は8月22日出版された論文で少し古いが、記憶の発達と海馬の解剖学的発達の関係について調べた研究で米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Hippocampal maturity promotes memory distinctivenesss in childhood and adolescence(海馬の成熟は子供や青年の記憶の弁別性を促進する)」だ。

人間の研究ではまず脳を操作することは許されない。従って、この困難を観察と推計学を組み合わせて克服する。そのため、多くの人間からデータを取る必要がある。実際には、ボランティアを集めるのがおそらく最も難しい過程だろう。この研究では70人の6−14歳の児童、及び33人の18−27歳の若年成人を対象とし、MRIで海馬の解剖学的形態を詳しく分析し、年齢による発達を調べている。これまで様々な観察結果はあったようだが、今回の結果は海馬は年齢とともに発達し、例えば歯状回のように拡張する場所と、鈎状回のように縮小する場所に分かれる。ただ、これは傾向で、発達程度の個人差は大きく、個人的経験の違いなどの発達程度を反映していると考えられる。今後は領域間結合などを調べる必要がある。いずれにせよ傾向ははっきりしたので、すべての場所の形態を総合した、「発達度指標」を開発している。

次に、それぞれの被験者の記憶力について、連合記憶や弁別記憶など様々な記憶力を調べるテストを行い、それぞれの数値と、海馬の発達度指数との相関を調べている。結果は、顔などの小さな違いを弁別する能力は明らかに海馬の発達と相関するが、連合記憶や情報源記憶(source momoery)などの他の記憶能力とは相関しないことが分かった。

一方、同じような発達度指標を前頭前皮質について開発し、これと様々な記憶との相関を調べると、情報の出処についての記憶(情報源記憶)が強い相関を持つことを示している。

以上が結果で、海馬の発達は顔の分別など、小さな変化を分別した記憶に関わっており、一方情報がどこから来たかといった情報源記憶の発達には海馬ではなく前頭前皮質が関わっているという結論になる。分かりやすく言うと、子供の頃についての記憶はあっても、詳細は覚えていないのは、この弁別記憶が発達していないせいだという結論になる。実際には個人差が大きく、大きなばらつきのある点の集合から計算される相関と言える。今後は、より早い段階、病的な状態、さらにテンソルなどを用いた領域間の結合測定など、一歩づつ研究を進めていくことになるだろう。しかし、どんなに大変でも、人間を用いた研究なしに高次機能や病気を理解することはできない。今日紹介した論文は、記憶課題と、MRI検査は全く別に行われた研究だが、次回は課題と脳機能計測を同時に行った研究を紹介する。

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