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12月8日:アルツハイマー病もミトコンドリア病?(Natureオンライン版掲載論文)

2017年12月8日
基礎研究の重要性が議論になっているが、実際には何が基礎で、何が応用かを決めることは難しい。要するに基礎研究というのは、個人の興味とアイデアで自由にテーマを選べることが重要で。もちろん、それが臨床応用に関わっていてもいいと思う。とは言え、個人の興味でやっている話を、患者さんのためとリップサービスするのは慎んだ方がいい。
一方、優秀な人材に、政府や患者さんが解決して欲しい問題を提示して、それを研究してもらう仕組みも重要で、この場合論文を書くより、提示された問題を解決することが優先される。従って、論文の数や特許の数だけで成果を判断するのはもってのほかになる。というのも、論文を書くより難しい問題が実際の医療には横たわっており、このような科学以外の問題も含めた解決が要求される。

最初、アルツハイマー病の新しい治療法の論文かと思って読み始めた今日紹介するローザンヌEPFLからの論文読んでいて、こんなことを考えてしまった。

アルツハイマー病でもミトコンドリアの蛋白合成系の異常によるストレスが関わっていることを示そうとした論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Enhancing mitochondrial proteostasis reduces amyloid-β proteotoxity(ミトコンドリアのタンパク質の恒常性維持機能を高めることでアミロイドβの毒性を弱めることができる)」だ。

研究は最初からアルツハイマー病(AD)でもミトコンドリア異常があるはずと決めて始めているようだ。ミトコンドリアの異常による脳の変性疾患にパーキンソン病があり、ADもその可能性があると考えるのは何の不思議もない。

AD脳の遺伝子発現を調べることができるデータベースをまず探索し、ミトコンドリアの酸化ストレス、あるいはタンパク質の折りたたみの異常によるミトコンドリアのストレスを示す分子の発現が上昇し、ミトコンドリアが分解されるマイトファジーに関わる分子も上昇していることを確認する。さらに、このデータベースからの結果を、実際の患者さんの脳組織についても確認している。詳細を省いてまとめると、ADもミトコンドリアストレスによる病気だと結論している。 もちろん結論するのは自由だが、これが実際のADで働いており、治療標的になりうることを示すのは簡単でない。この点でこの研究はかなり問題があるように感じる。すなわち、ミトコンドリアストレスを調べるため、アミロイドβが細胞質で高発現するマウスモデルや、細胞モデル、さらには線虫モデルを使ってこの概念を証明しようとしている。しかし、使われたモデルは遊離したAβを細胞内で発現させるモデルで、タンパク質の凝集による細胞内ストレスを一般的に研究するには問題ないが、アルツハイマー病モデルとして適切かどうか、かなり疑問を感じる。細胞内でタンパク質を沈殿させる系でアルツハイマー病の治療開発と言いたいなら、まだTauタンパク質でやった方がいいのではないだろうか。

研究では、細胞内Aβを沈殿させるモデルを用いて、ミトコンドリアのタンパク質代謝の恒常性が、Aβの凝集に関わる最も重要なプロセスで、この過程を障害すると細胞死は進み、逆に促進するとタンパク質の凝集が阻害され、病気を抑えられるので、この過程を操作することでADの進行を遅らせる可能性について、例えばミトコンドリアの活性を上げる恒常性維持を助けることから老化防止に使われるニコチンアミドリボサイドを投与する実験で示している。 ひょっとしたらプロはもっと重要なことをこの研究に見ているのかもしれない。しかし、専門外の私から見ると、結論はミトコンドリアのタンパク質の恒常性の維持がタンパク質の凝集による細胞編成に関わるという話にすぎず、ニコチンアミドリボサイドが細胞死抑制に効果があると示されても、これをADの患者さんに朗報として届ける気にならない。 最初書いたように、興味の赴くまま自由に研究を行うのは大事だ。しかし、それを特定の病気のための研究とこじつけて誘導するのは問題がると思う。この研究は、私にはだいぶこじつけに見えた。もちろん、NatureのArticleとして掲載されるのだから、専門家の批判を受けているはずで、私が気がつかない重要性があるのかもしれないが、論文からは明確には伝わってこなかった。

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