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12月9日:拡がるアデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療

2017年12月9日
このブログで紹介した論文を「遺伝子治療」をキーワードに検索すると38編リストされる。ほぼ4年このブログを書いているので、年に10編のペースだ。そしてそのほとんどで、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が遺伝子の運び屋として使われている。 遺伝子治療には外来遺伝子をホストのゲノムに組み込ませて一体化させる方法と(エイズウイルスと同じ種類のレトロウイルスが用いられる)、ゲノムはできるだけ変化させず、必要な遺伝子をウイルスベクターとともに細胞内で増幅して分子を供給する方法に大別される。特に安全性の高いAAVが開発されて、遺伝子治療が急速に現実のものとなった。

世界中の臨床治験が登録されているClinical Trial Governmentを調べると、現在89のAAVを用いた治験が進んでいる。ざっとカウントしただけで正確ではないが、そのほとんど(61)は米国で行われており、あとは英国(9)、フランス(6)中国(4)と続き賑わいを見せている。ちなみに我が国はと見ると、一件だけ自治医大のパーキンソン病治療が登録されているだけで、出遅れが甚だしい。遺伝子治療を待ち望まれている患者さんに聞かれると、「開発は米国を中心に大きく進んでいるので、我が国の状況を気にしないで、現在登録されている治験の結果を待ったらどうですか」と申し上げることにしている。

万能のように思えるAAV遺伝子治療だが、大量の分子の供給が必要な病気、例えば血中の凝固因子が欠損する血友病では、必要なレベルの凝固因子を供給できないことがわかってきた。これを克服しようと、大量のウイルスを注射すると、免疫のできにくいAAVでも感染した細胞への反応が起こることもわかってきた。今日紹介するフィラデルフィア小児病院からの論文はAAVを用いた血友病の治療だが、正常の第9凝固因子遺伝子ではなく、正常の8倍凝固活性が高い突然変異型の第9因子遺伝子を組み込んだAAVを用いて、ウイルスの限界を超えられないか行った治験で、12月7日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Hemophilia B gene therapy with high-specific activity factor IX variant(高い活性を持つ第9因子変異体によるB型血友病の治療)」だ。

この研究の最大の目的は、凝固しやすい変異型第9因子が副作用なく長期間機能してくれるか調べることだ。治験では、凝固活性が正常の2%以下の重症の患者さんを選び、正常の第9因子遺伝子では長期効果が期待できない量のベクターを静脈に一回注射している。

詳細を省いて結果をまとめると、ほとんどの患者さんで凝固活性が正常の35%近くにまで回復し、少なくとも1年近くは治療効果が維持される。この結果、患者さんは出血の心配や、凝固因子の点滴から解放されるという結果だ。また、固まりやすい分子でも血中の濃度が低いため心配される副作用はほとんどないという結果だ。時間はかかるだろうが、臨床で用いられる可能性は高い。現在凝固因子を注入する治療は膨大な医療費が必要だ。その意味でも今回の治験の意味は大きい。

この研究は遺伝子治療のさらなる可能性を示したと思う。すなわち、治療効果を遺伝子自体を改良することで、ベクターはそのままで高められることを示した点だ。少量のウイルスで高い効果を得る研究が加速するだろう。AAVは組み込む遺伝子の制限はあるが、同じ枠組みで遺伝子だけを変えることで、個別の要求にも対応できる。すなわち、患者さんに合わせた治療が可能だ。とするとClinical Trial Governmentに登録された我が国の治験が1件というのは寂しい。企業だけに頼らず、研究者と患者さんが一緒に取り組み仕組みが今後必要だと思う。

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