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12月11日:ガンが骨髄環境を自分に都合の良いように変化させる?(12月1日号)

2017年12月11日
研究の着想は論理的に思えるかもしれないが、あまり論理的ではない思い込みを確かめて勝負していると思える論文も数多くある。このような論文ではイントロダクションでもっともらしい理由が並べられるが、読んでいる方も騙されている気がする時がある。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文ではガン細胞が骨髄に働きかけて自分の増殖を助けてくれる白血球をリクルートするという信じられないような話で12月1日号のScienceに掲載されている。タイトルは「Osteoblasts remotely supply lung tumors with cancer promoting siglecF neutrophils(骨芽細胞は肺ガンへガンの増殖を促進するSiglecF高発現の白血球を供給する)」だ。

いろいろ最初に理由が述べられているが、結局は普通では考えない可能性を思いついたことが発端で、あとは納得出来るだけのデータが示せるかが勝負になる。

この研究はまず肺ガンによって骨髄の造血環境が変化するという着想を確かめるところから話が始まる。アデノウイルスを用いてCre-遺伝子組み換え酵素を気管に注入してガンのドライバーK-rasを活性化するとともに、ガン抑制遺伝子p53を欠落させる実験系でガンを誘導し、ガン発生により起こる骨髄の変化を、標識したbisphosphonateの結合でモニターしている。すると、期待通りに(?)ほぼ全ての骨で骨梁が増加し、骨形成が促進することを明らかにしている。また、これがマウスだけの特殊な現象でないことを確かめるため、ヒトの腺癌の患者さんの骨髄のCT検査を行い、マウスと同じように骨髄の骨梁が増加していることも確かめている。

次に、この骨梁増加が骨芽細胞の活性化に起因することを確認した後、骨髄での変化が腫瘍の増殖と強く相関することを明らかにしている。すなわち、最初着想したように、ガンの発生により骨髄での骨形成がリプログラムされ、これが回り回って腫瘍の増殖を促進しているという可能性が示されたことになる。

次の課題は、骨髄の変化と腫瘍増殖の促進をつなぐメカニズムを特定することだが、肺ガン組織に多くの好中球が浸潤していることをヒントにして、この好中球の中に抗がん作用ではなく、ガン増殖促進に働く集団があると予想し、肺ガン組織にはSiglecFと呼ばれる分子を発現する好中球の数が、ガンによって誘導される骨髄の変化に応じて著しく増加していることを発見する。

このSiglecF強陽性の細胞の遺伝子発現を調べると、ガンの増殖に関わる多くの分子の発現が上昇している。また、この集団をガン組織から分離して担ガンマウスに移植するとガンの増殖が高まる。さらに、ヒトの肺ガン組織の遺伝子発現を調べ、SiglecFの発現が高い患者さんでは予後が悪いことも確認している。

ここまでは着想通りに話が進んでいるが、最後にガンにより誘導される骨芽細胞の細胞変化のキーマンを特定することが必要になる。試験管内での骨芽細胞増殖を指標に担ガンマウスの血清を探索し、ガンから分泌されるRAGEと呼ばれる骨芽細胞の刺激因子がこの現象の誘導因子であることを示している。

まとめると、通常骨髄で作られる好中球はSiglecFの発現が低いが、ガンができるとRAGEが分泌され骨芽細胞を活性化、これにより骨髄から多くのSiglecF高発現の好中球が生産され、これがガン組織でガンの増殖を助けるというシナリオだ。

読んでいてコンセプト先にありきという印象の強い論文で、RAGEやCXCR2をブロックすることでガンの増殖を抑えることが示されないと、やはりにわかには信じられないのは私だけだろうか。

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