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11月28日:アルコール依存症の遺伝子(11月26日号Nature communication掲載、オリジナル記事)

2013年11月28日

  脳機能のような高次機能について小動物モデルはどれだけ人間を反映できるのだろうかという疑問は、例えばマウスが賢くなったと言った報道を見たとき、大方の一般の人が感じる疑問だろう。研究を行う側は心の片隅に疑問を抱いていたにしても、プレス発表では「この方法で人も賢くなれる」ぐらいの事は言ってしまう。実際は人間を反映する場合もあるがそうでない場合も多い。おそらく、小動物モデルの限界を認識した上で、人間とどう相関させるのかを考えていくしかないのだろう。そんな例の一つが、2007年相次いで論文が出た浮気の遺伝子だろう。最初の論文は、通常は一夫一婦を守る身持ちのいいハタネズミの中で、浮気をする雄を調べると、バソプレッシン受容体の脳内での発現に変化が見られたという報告だった。これでよせばいいのだが、人間でこの受容体遺伝子の多様性を調べてタイプ分けすると、あるタイプを持つ事で離婚率や浮気の頻度が上がるという論文が出た。この論文を見たとき私は秘書に、「結婚するとき相手を連れてきたら、この遺伝子を調べてあげる」などと解説したのを覚えている。勿論この研究が正しいかどうか結論は控えるが、たかが動物の生態とせずに人間で調べてみた研究者に脱帽だ。
  さて、今日紹介するのはその逆の話で、ヒトの遺伝子多型研究からアルコール依存症との関係が疑われていた遺伝子に突然変異を持つ、やはりアルコール依存症のモデルマウスが確立されたという話だ。論文は英国HarwellにあるMRC所属研究所の仕事で、「Mutations in the Gabrb1 gene promote alcohol consumption through increased tonic inhibition (Gabrb1遺伝子の突然変異は神経の緊張抑制を上昇させてアルコール摂取量を促進する)」というタイトルがつけられている。神経細胞同士の伝達にGABAという物質が重要な役割を果たしているが、その受容体遺伝子の多型と、ヒトアルコール依存症との関連がこれまで多く報告されていた。ただ、遺伝子多型の研究をメカニズムの研究まで進めるのは並大抵ではない。そして多くの場合、モデル動物を使う必要がある。このグループは、同じ遺伝子の変異によりアルコール依存症も出るマウスを作成する試みを行い、ついにこの遺伝子に突然変異を起こしたアルコール依存症のマウスを確立した。この突然変異マウスは、水よりアルコールを好み、一日の摂取量も正常マウスと比べると何倍も多い。この研究から結論されるのは、アルコール依存症についてはマウスもヒトのモデルになり得ると言うことになる。詳しくは述べないが、この論文ではモデルマウスの神経細胞を使って、どのレベルで異常が生じているかを詳しく解析している。このようにうまく行くと、モデル動物を使って、普通ヒトでは簡単にできない様々な研究が可能になる。論文では、この型を用いてアルコール依存症の治療薬開発が促進される可能性が唄われていた。一つ強調しておきたいのは、狙った遺伝子をノックアウトする研究と比べると、突然変異を誘導してその中から自分の求める症状を示すマウスを発見する研究は大変な仕事だ。それをやり遂げたこのグループには正直脱帽だ。とは言え、アルコールの魅力はまだまだ奥深いことも間違いないと私は確信している。


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