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12月30日:2017医学の注目すべき進歩(Nature Medicine 12月号)

2017年12月30日
今日紹介するのは、Nature Medicineの編集者が1年を振り返って、面白いと思った研究論文を分野ごとに紹介している。私も一編を除いて全て読んでいたが、読み落とした論文があったのはショックだ。また、幾つかの論文についてはこのブログでも紹介したので、もう一度リンクさせておく。ただ、Nature, Scienceのニュースと違って、かなり専門的であることは断っておく。

ガンのチェックポイント治療
抗PD-1抗体などを用いたチェックポイント治療が現在抱える最大の課題は、効果のばらつきの原因を明らかにし、治療効果の予測を可能にするとともに、最終的には全ての人で効果が得られるようにする方法の開発だ。その点で今年最も重要な論文と指摘されたのがジョンホプキンス大学からNatureに掲載された論文(Nature 545,60,2017)だ。この研究は、治療前後で患者さんの血液のT細胞を調べ、メラノーマに関する限り全ての患者さんでガンに対するT細胞ができているが、ガン細胞の数が多すぎるとT細胞が枯渇して治療が効かない可能性を示した。この結果はチェックポイント治療の前にできるだけ腫瘍を減らすと効果が高まる可能性を示しており、新しい治療プロトコルにつながる。
もう一つの論文、ミスマッチ修復酵素が変異したガンではチェックポイント治療の効果が高いというやはりジョンホプキンス大学からの論文で、すでにメルクの抗PD-1抗体はこの適用についてFDAの認可を受けている(7月30日記事参照

ガンワクチンの可能性
私も7月8日、7月9日に紹介した、実際のガンの持つガン抗原を特定して個人用ワクチンを作成してガンを治す第1相治験論文が、ハーバード大学から、およびドイツマインツ大学からそれぞれ発表された。ともに、かなり期待を持たせる結果だ。この進歩は、ガンゲノムのDNA配列からガン抗原として働くペプチド断片を特定する技術が発展したおかげだが、現在のところ特定された抗原が免疫反応を誘導できるかは試験管内での検査が必要で、一般治療となるには時間がかかると思う。

神経細胞死を誘導するミクログリア
今年もミクログリアと神経細胞死の研究論文が数多く発表されているが、紹介されているのは1月スタンフォード大学から発表された論文で(Nature 541,481,2017)、ミクログリアがIL-1α、TNF、C1qを介してアストロサイトを活性化すると、アストロサイトは本来の神経保護作用を失い、神経細胞死を誘導するという恐ろしい発見だ。ただ、この恐ろしいアストロサイトは多くの変性性神経疾患で見られることから、この経路をブロックできると変性性疾患の治療も可能になるかもしれない。

GABA受容体を刺激して糖尿病を治す
1月にオーストリアとフランスからGABA受容体の活性を高めると、膵臓のα細胞がβ細胞へ転換し、糖尿病が治療できる可能性が示された。特にオーストリアからの論文は、この経路をなんとマラリアの治療薬として有名なアルテメールがGABA受容体の活性を高めることを示しており、この論文を読んだ時は本当に驚き1型糖尿病の治療が可能になるのではと大きな期待を持った。

血液系の老化と心臓病
血液幹細胞を研究していたのにこの論文は完全に見落としていた(言い訳:おそらくアフリカ旅行のせいだと思う)。末梢血液細胞のゲノムが解析され、高齢になると、一個の幹細胞クローン由来の末梢血が増えてくる現象が最近注目されている。全体の幹細胞が減るだけではなく、一部の幹細胞の増殖が強まるせいだと考えられているが、このような血液細胞でこのようなクローン性増殖を示すクローンが多いと、心筋梗塞のリスクが2倍高いことを示す論文が7月New England Journal of Medicine(377,111,2017)に発表された。原因を確かめるため、血液のクローン増殖の最も多い原因になっているTET2欠損血液細胞を移植する実験で、TET2欠損マクロファージが炎症性のサイトカインを発現して動脈硬化を悪化させることで危険性が高まることを明らかにしている。この結果は、昨日紹介した、Ilarisによる心筋梗塞再発防止につながるから驚きだ。

FSHを抑制して肥満を治療する
この論文(Nature 546,107,2017)は発表当時このブログでも紹介したが、FSHの作用による骨粗鬆症の治療薬の研究中、脂肪が減ることを発見し、そのメカニズムを追求した研究だ。詳細は全て省くが、FSHに対する抗体が白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へと変換させ、脂肪を燃やして、痩せることができることが明らかになり、更年期肥満の治療法が開発されたことになる。確かに、これまで見落とされていた重要な事実で、面白い論文だが、もしこの抗体で更年期肥満が治療できたとしても、個人的にはそれほど大騒ぎするほどではないように思った。

クリスパーによるヒト胚操作。
我が国でもヒト胚の遺伝子編集が大きな話題になり、中国での研究をきっかけに様々な意見がメディアに溢れた。クリスパーがあればヒト胚の遺伝子編集が可能なことはわかりきっている。それを敢えて行うからには、論文の品格が問われる。この状況で、品格が高いヒト胚研究とはどのようなものかを示したのが、この記事が取り上げたオレゴン大学からの論文だ(Nature 548, 413, 2017)。深い考えによる病気の選択(MybPC3変異)、iPSによる予備実験、Cas9によるDNA切断修復と、モザイク卵形成阻害のための条件の検討など、プロとは何かを存分に見せた品格の高い論文だった。我が国の役所でも審議されていると思うが、このぐらいの品格の高い論文を読み合せするぐらいの覚悟で議論してほしい。

細菌叢研究の新しい方向
細菌叢の研究は我が国でも盛んだが、一部の研究者を除くと、細菌の種類をゲノム解析で調べるだけの域から出ていない。すでにトップジャーナルでは、そのような研究は見向きもされない。正確に、因果性を調べることが求められる。その典型が今回選ばれたロックフェラー大学からの論文だろう(Nature 549, 48,2017)。この研究ではバイオインフォマティックスと大腸菌を用いた工学的手法を用いて、細菌叢が合成できる多数のN-アセチルアミド類(NAS)と、ホスト側のGタンパク質共役型受容体(GPCR)の相互作用を丹念に調べ、一部のNASが人間のGPCRに直接作用すること、そしてそのうちの一つがマウスの血統を低下させることを示している。わが国は、免疫でははこのような総合力のある高いレベルの研究ができているが、代謝分野はかなり遅れている印象だ。 以上、かなり妥当な選択だと感心した。

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