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1月29日:脳局所に薬剤を注入するデバイス(1月24日号Science Translational Medicine掲載論文)

2018年1月29日
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脳を操作する技術の開発が進んでいる。現在広く使われる深部刺激に始まり、昨日紹介した経頭蓋電磁波照射や、電流刺激などだ。経頭蓋脳操作に至っては、個人使用のための製品がすでに開発され、記憶を増強したり、あるいは運動機能を高めると宣伝して販売しようとする会社まであるようだ。ただ、これらはすべて物理的刺激で、もう一つの神経興奮を調節する化学物質を用いる方法は、全身投与、あるいは髄液投与に限られてきた。しかし素人でも、局所に薬剤を必要な量投与する一種の微量注射法が開発できれば、当然神経細胞特異性は高まるし、面白い可能性が開けるのにと思う。ただ、物理的刺激と異なり、脳組織への微量注入法の開発はそれほど簡単ではなかったようだ。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は長期間微量の神経作用物質を注入し続けその効果をモニターする装置の開発で1月24日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Miniaturized neural system for chronic local intracerebral drug delivery(脳内局所への薬剤投与のための小型化神経システム)」だ。

開発されたデバイスは電極と薬剤用注入用の針が組み合わさったもので、針の太さは外径30ミクロン内径20ミクロンという細いものだ。これに既存のマイクロポンプをつないでいる。

読んで感じるのは、要するにハリとポンプという簡単な組み合わせなのにこれまで実現していなかった点だ。開発までの苦労話が描かれるわけではないのでなぜそんなに難しいのか未だによくわからない。いずれにせよ、苦労の果てに(?)プロトタイプを完成させた。

まずこの針をラットに8週間留置し、組織反応が強くないことを確かめ、また期待通り正確にマイクロリットルレベルの薬剤の注入が組織内で可能であることを確認した上で、脳操作が可能か調べる実験に写っている。

まず抑制性GABA作動薬ムッシモールを片方の線条体に投与することで、局所の神経興奮を抑えることができることを確認し、これにより誘導されるラットが一つの方向だけに偏って動くかどうか調べ、期待通り片方の線条体の興奮が抑制されるとラットが円を一方向だけにぐるぐると回り続けることを確認する。

次に猿を用いて、やはりムッシモールで局所の神経興奮をほぼ完全に抑えることができること、またこの作用を人工髄液を用いて洗い流せることを示している。要するに月単位で薬剤を投与することが可能になることを示している。

話はここまでで、繰り返すがこれほどいろんな開発が進む現代、逆にこのような技術の開発ができていなかったのかと驚いた。しかし、この研究のおかげで、局所性が明らかな精神神経疾患の治療、幹細胞刺激因子による神経再生、がん治療など様々な可能性が開けるだろう。期待したい。
  1. 橋爪良信 より:

    脳室内投与は頭蓋骨の割れ目を探ってシリンジの針を刺すようですが大変難しいそうです。BBBを透過しない薬剤や、血中半減期の短い薬剤を投与する実験にはいいですね。

    1. nishikawa より:

      量を絞れるので、ムッシモールのような半減期の長い分子をわざと使っているように思います。

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