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2月10日:友達が遺伝的にも似てくる要因(1月23日号米国アカデミー紀要掲載論文)

2018年2月10日
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第一次安倍内閣成立から、安倍政権は「お友達内閣」と揶揄されてきたが、安倍内閣だけでなく、私たちは気心の知れた友人といると安心する。一般的に、お友達で集まってしまうのは、私たちが育った環境によるものと考えられてきたが、大規模ゲノムプロジェクトが進むことで、話が変わり始めた。

2014年7月に紹介したエール大学の論文はGWASと呼ばれるゲノムの多様性を調べる検査から計算できる遺伝子の類似性を、友人と無関係な他人とで比べ、友人同士の方が遺伝的に類似していることを示して、「え!そんなことがあるの」と私たちを驚かせた(http://aasj.jp/news/watch/1844)。しかし、お友達を選ぶとき、マラソンなどの激しいスポーツで選んだとすると、当然遺伝的に似てくるのもわかるし、社会階層で自然に遺伝的層別化が起こってしまう可能性もある。したがって、お友達は遺伝的に似ているという結果は、様々な原因による可能性があり、ゲノムを取り入れた社会学にも発展する可能性がある。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は友達同士が遺伝的に類似していることをさらに詳しく検討した研究で1月23日号の米国アカデミー紀要に発表された。タイトルは「The social genome of friends and schoolmates in the national longitudinal study of adolescent to adult health(米国の思春期から成人の健康に関する長期追跡研究を用いた友人と学友の社会ゲノム)」だ。

米国では思春期から健康調査を長期間続けるコホート研究が進んでいるが、この研究ではこのコホート研究の中から約5000人のヨーロッパ起源の白人に絞り、自己申告された友人とそれ以外を層別化した上で、SNPアレーで調べたゲノムを比べている。

詳細を省いて結果をまとめると次のようになる。

1) この研究でも友人同士の方がゲノムが類似していることが確認された。
2) 友人の選択には、たとえば体型が似ているなど遺伝的影響の強い形質の親和性で友人が選ばれるsocial homophilyが背景にある可能性がある。そこで、遺伝的要因の大きい、学業成績、身長、BMIなどの遺伝的要因の寄与を調べると、学業成績が最も強く影響し、身体的Homophily の影響は少ない。
3) どの学校に通うかは社会階層に大きく関わるが、階層により遺伝的類似性が変わることが知られている。友人同士が遺伝的に似る原因のかなりの部分が、階層と相関する遺伝要因が寄与している。
以上の結果は、「友人同士遺伝的に似ている」ことだけを発表して人を驚かせても、何の意味もないことを示している。すなわち、友人選びに影響する私たちが考えている様々な社会的要因が、すでに遺伝学的にも層別化されているということを肝に銘じてゲノムデータを解釈する必要がある。それと同時に、ゲノムデータを相関させることで、我々の社会の差別や階層化をより深く分析する可能性も示されている。その意味で21世紀の人間学には、ゲノム情報が欠かせないこともよくわかった。

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