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大気汚染と自閉症(Epidemiology誌オンライン版掲載)

2013年12月4日

今個人的に自閉症研究の現状を調べているため、自閉症についての記載が続く。さて、今日紹介する仕事ははっきり言って「本当か?」と言う疑問と、「こんな事まで調べているのか?」と言う驚きが混じっている。Epidemiologyという疫学関係の雑誌に掲載された南カリフォルニア大学の仕事だ。タイトルは「Autism Spectrum Disorder, Interaction of Air Pollution with the Met Receptor Tyrosine Kinase Gene (自閉症スペクトラム:大気汚染とMETチロシンキナーゼ遺伝子の相互作用)」。これを見ると自閉症と大気汚染?とだれでも先ずいぶかしがる。しかし、この仕事以前にもこのグループはハイウェイ近くの大気汚染と自閉症の関係を疫学的に調べている。即ち、自閉症の原因を求めて、可能なあらゆる事との相関性を調べるのが疫学研究だ。ではMET遺伝子はなぜ選ばれたのか。まずこの遺伝子のプロモーター部位の多型と自閉症との相関が既に知られている。その上で、母マウスが大気汚染物質に晒されると、生まれた仔マウスのMET遺伝子の脳内発現が低下する事が知られている。まさに12月2日に紹介したエピジェネティックな影響の例だ。いずれにせよ、これは疑わしいと言う直感を科学にする必要があるが、このための学問が疫学で、基本的に統計学的手法が用いられている。結果はタイトル通りで、MET遺伝子の一つのタイプと、大気汚染が重なると自閉症のリスクが上昇すると言うものだ。この研究の他にも母体へのストレスによる自閉症発症の研究は多くある(これも調べようと思っている)。有名な所では、第2次世界大戦中のアムステルダム封鎖に伴う飢餓状態の中で生まれた子供に自閉症の多いという報告を挙げる事が出来る。私はこれまで自閉症の分子遺伝学過程ばかりを紹介して来たが、このように遺伝とは異なる要素についての研究も進んでいることを改めて認識した。飢餓であれ、大気汚染であれ、自閉症に遺伝以外の要因の関与がはっきりする事は、予防だけでなく、治療への様々な可能性を開いてくれる。その意味では直感的に疑わしいあらゆる要因を科学的に調べる疫学は重要だ。


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