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3月8日:自閉症児の脳の活動と機能の関連を調べる(eLife掲載論文)

2018年3月8日
児童特集4日目は自閉症児の脳波による脳内活動を、症状と相関させようとするジュネーブ大学からの論文でeLifeにオンライン掲載されている(DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.31670:これもフリーアクセスの論文でぜひ読んでみてほしい)。タイトルは「Early alterations of social brain networks in young children with autism(自閉症と診断された幼児の社会性の脳回路に早期から見られる変化)」だ。

自閉症スペクトラム(ASD)が主に発生時と発達時期の脳回路の形成の異常として発生することはほぼ間違いのない事実と考えられるようになっている。原因として複雑な遺伝子変化の組み合わせによる遺伝的要因が大きいが、母体が晒されている低栄養、アルコール、感染、発熱、炎症、そして神経刺激物質(治療薬を含むあらゆる神経刺激物質)などありとあらゆる外的要因もリスクを高める。従って、できる限りこれらの要因を取り除くことが現在私たちにできる唯一の予防と言える。

とはいえ、脳の可塑性を信じて、生後脳回路を一般児に近い形に変えられないかという研究は、ASDの頻度から考えても21世紀医学の重要な課題だ。そのためには、症状に対応する脳回路の変化を明らかにする必要があり、多くの研究が現在行われているが、なかなか決め手にかけることも事実だ。今日紹介するジュネーブ大学の論文もその典型だ。

この研究は決して試行錯誤を繰り返すという研究ではなく、最初から著者らが考える仮説があるが、脳研究では珍しいことではない。脳イメージング研究の場合、情報処理に強く依存するので、ROIと呼ばれる特に注目すべき場所がある方がモデルが立てやすい。

まずASDにかかわる領域として、眼窩前頭野、内側前頭前皮質、上側頭皮質、側頭極、扁桃体、楔前部、側頭頭頂境界、前帯状皮質、そして島皮質をつなぐ社会脳と言われる部分に異常があると予想して研究を進めていると思う。

この研究の売りは、2−4歳という極めて早い段階のASDの子供を集め、麻酔なしで高密度の脳波を記録している点で、この時期の子供は静かにしないので、忍耐強く動きの少ない時の脳波を集めている。このため、集めた半分の対象は、動きすぎて研究から除外せざるをえなくなっている。

そして記録した脳波活動は、脳波の波長別に脳内各領域の結合を示す指標Summed Outflowに転換している。これは脳をネットワークとして各部位の活動を起こす神経的因果性を調べるGrangerモデルを用いて計算しているが、要するに各部位から様々な領域への情報の伝達量と考えればいい。

この方法でまず各領域から流れる情報の量を計算してみると、ほとんどの情報がテータ波とアルファ波により伝達されている。これまでの研究でテータ波は社会的刺激による反応で上昇することが知られており、期待通りだ。また、各波長でASD特異的にSummed Outflowが高まっている領域は、先に挙げた社会性脳のネットワーク内の6カ所に認めることができる。また、領域間での結合性を調べ、ASDでのSummed Outflowの高まりは、社会性脳のネットワークでの情報のやり取りの高まりの結果であることも示している。

最後に、ASDの症状を様々なガイドラインに沿って評価し、各領域の活動との相関を調べ、それぞれの領域の活動の上昇は、異なる症状の程度と逆の相関を示すことを示している。例えば、VABS-2と呼ばれる適応行動を総合的に評価する指標は、文字の処理に関わるLingual領域の活動と相関を示すし、遊びながら測定できるPEP-3と呼ばれる教育診断検査指標は、横側頭回や弁蓋部のsummed outflowと相関する。そして、自閉症児の目の動きを一般児と比べると、目の動きの変化は、帯状回と特に強い相関がある。

ここで用いられる指標は、高いと症状が重いことを示すことから、筆者らは今回示した領域の活動の高まりは、回路の異常を正常化しようとする補償的な活動ではないかと結論している。 まとめると、1)覚醒時の脳波記録によりASDを早く診断できること、2)ASDの個々の症状を別の領域の活動と相関させられること、などを明らかにした点がこの研究の重要性だが、治療へのアイデアが出るというところまでは到達していない。現在行われている様々な早期介入研究でも、同じような手法での評価が使われ、なんとか治療への道が開けて欲しいと思う。

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