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4月20日:エルカルディ・グティエール症候群の発症メカニズム(Natureオンライン版掲載論文)

2018年4月20日
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エルカルディ・グティエール病(AG病)は生後さまざまな時期から、自己免疫病のような強い炎症が起こる常染色体劣性遺伝病で、現在まで7種類の原因遺伝子が特定されている。この7種類の遺伝子の多くは、DNA複製にかかわる分子で、例えばTREX1はDNAを端から分解するエンドヌクレアーゼだし、RNASEH2は岡崎フラグメントのRNAプライマーを除去する酵素であることがわかっている。要するに、DNA複製に関わる酵素が何故これほど強い炎症を引き起こすのかが重要な問題になるが、インターフェロンが過剰につくられることがこの原因になっていることはわかっている。
今日紹介するCNRS人類遺伝学研究所からの論文は、この症候群の原因遺伝子の一つで、その機能が完全にわかっていない分子SAMHD1の機能を明らかにする事で、何故この病気でインターフェロンの過剰生産が起こるのかを明らかにした研究でNatureにオンライン出版された。タイトルは「SAMHD1 acts at stalled replication forks to prevent interferon induction(SAMHD1は停止した複製フォークで働いて、インターフェロンの誘導を防ぐ)」だ。
SAMHD1はdNTPを分解する活性を持ち、CDKによりその作用が抑制される事がわかっていた。このグループは、AG病の遺伝子が複製フォークに関わる分子であることから、SAMHD1もここで異なる機能を発揮しているのではないかと考え、薬剤で(ハイドロオキシウレア)で複製を停止させてこの分子の機能を調べると、この分子が欠損した細胞では一本鎖DNAが上昇することを突き留める。即ち、複製フォークが停止するとそこでDNAが分解されるが、このとき細胞の自然免疫を刺激しないようにDNAを処理する役割をこの分子は担っており、これが欠損すると一本鎖DNA が細胞質に流れだしインターフェロンを誘導している事が分かった。

この発見により、何故SAMHD1が欠損すると強い炎症が続くのかを説明する事ができた事になり、私のレベルでは十分な説明だが、研究では具体的にこの分子が停止した複製フォークでどう働いているか、細胞学的に丹念に調べている。おそらくこのグループは、DNA複製や修復を専門に研究てきた歴史があるのだろう。ここからは知識と経験に裏付けられたプロの仕事といった感じだ。

長い話を短くまとめSAMHD1の機能を説明すると、次のようになる。SAMHD1はCyclinA-CDKによりリン酸化を受け、活性化されると、複製中のDNAを分解するMRE11を複製フォークにリクルートして、複製されつつあるDNAを5’側へ分解すると共に、3’側はATR-CHK1経路を活性化してDNAを切除する事で、一本鎖DNAが細胞質に流れでないようにしている。ところが、この作用が欠損すると、今度はRECQ1酵素が合成されたてのDNAを引き離し、そのDNAが切断され、細胞質に流れ出し、インターフェロンを誘導するというシナリオを提案している。

DNA複製の過程を復習するには最適の論文で、自分のDNAと侵入したDNAを区別して反応するための重要な機構である事がわかる。また、AG病の成立メカニズムについてもよく理解できた。ただ、これが明らかになっても、なるべく複製が止まらないようにする以外に対症療法はなく、重要な組織で遺伝子を正常化させる事しか治療方法は思い付かないので、少し残念だ。勉強になる論文だったが、一般の方にはちょっとわかりにくいはずで、申し訳なかった。

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