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4月24日:ガンの上皮・間葉転換(Natureオンライン版掲載論文)

2018年4月24日
ガンは上皮細胞の腫瘍だが、同じガン組織の中に上皮の細胞間接着が失われ、上皮とは思えない細胞に変化した部分をしばしば認めることがある。この多くは、上皮・間葉転換(EMT)によるメカニズムに基づいている。この現象自体は、ガンに特異的ではなく、例えば中胚葉が胎児上皮から分離してくるときも同じメカニズムが働いている。発生過程でのEMTはプログラムに従って変化する周りの環境により誘導されるが、ガンがEMTを起こすプロセスが、EMTと呼べるようなE or Tといった2者選択の分化決定の問題なのか完全に理解できているわけでは無い。

今日紹介するブリュッセル大学からの論文は動物の発ガンモデルをうまく使ってガンのEMT過程の多様性について明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Identification of the tumour transition states occurring during EMT(EMT過程で生起する腫瘍の移行状態の特定)」だ。

この研究では、ガンのEMT過程はEからTと言ったワンスイッチで起こるのではなく、多様な状態が生まれるのではないかと最初からにらんで、皮膚ガンのシステムを用いてこの可能性を調べている。まず、EMTマーカーとしてEpCamを用い、ガン細胞を陽性(E型)と陰性(T型)にわけ、次にEpcam陰性集団を様々な抗体を用いて染色し、この集団が期待通りこれらのマーカーで区別できる何種類もの細胞からなっていることを明らかにしている。そして、単一細胞のRNA発現を調べることで、Epcam発現が低下した後、EMT程度の異なる様々なガン細胞に多様化する事を明らかにしている。

次に、人間の乳ガンや皮膚ガンでも同じようなEMT過程での多様化が起こっていることを示し、これが決して実験的にできた特殊な現象でないことを示している。

これまでガンがEMTを起こすと、悪性度が高まることが知られているが、では増殖や転移などのガンの悪性度とEMTの各段階との関係はどうか、次に調べている。結果だが、増殖能の上昇はEpcamが消えた時点で起こり、EMTが始まるとすぐに誘導されるが、例えば皮膚内でもう一度上皮にもどる力は徐々に失われる。また、血中に流れ出す頻度を転移性の指標として調べると、やはりEMTが進むと転移が高まることが確認されている。

さらにEMTが一見不可逆的に起こり、転移が進むように見えても、例えば肺で増殖を始めるとまた上皮性がもどることも観察している。このことから、EMT過程は遺伝子の突然変異で起こるのではなく、染色体構造を変化させるエピジェネティックな過程である可能性が高い。そこで、Attaq-seqと呼ばれる染色体の開放度を調べる方法で、EMTに伴う転写の変化と染色体構造の相関を調べると、期待通り最初の遺伝子発現の変化は全て染色体構造のオン・オフにより調節されていることを確認している。

最後に、EMTの多様化をもたらすメカニズムがエピジェネティックスだけとすると、ガンの置かれた環境により多様化が起こっていることになる。そこで、それぞれの段階の組織内での位置を調べると、EMTが最も進んだ細胞は血管内皮に近い炎症巣と一致しており、マクロファージを中心とする炎症の程度でEMTの多様化が決められていることを示している。

全部読んでみると特に驚く結果ではなく、誰もが考えていたことをしっかりと示したと言う話だが、ガンの進展にゲノム変異とエピジェネティックの両方が協力しているのをみると、改めて厄介な相手だと実感した。

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