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4月28日Leptinが作用する神経回路(4月26日号 Nature掲載論文)

2018年4月28日
まだノックアウト技術が普及していない頃は、遺伝的異常を示すマウスや人の突然変異を特定することが遺伝学の重要な課題だった。CRISPRの時代から見ればまどろっこしい時代に見えるが、それはそれなりに面白い時代だったと思う。このような分子遺伝学的アプローチで特定された分子の中でも大ヒットの一つが食欲を抑えるホルモンとして華々しく登場したレプチンだろう。脂肪細胞から分泌され、脳に働いて食欲を抑え、エネルギー代謝を促進し、血糖を安定化するいいことづくしの分子で、おそらく代謝研究を脳科学と結合したという意味では重要な発見だったと思う。

しかしよく考えてみると、その後の進展をフォローしなかったこともあるが、今日紹介する論文を読むまで私の理解もここで止まっていた。この理由は、レプチンの機能や作用標的があまりに複雑すぎ、何がレプチンの直接作用か特定するのが難しかったためのようだ。事実、私がレプチンを初めて知ったのはマウスの毛色に関わるAgoutiの促進作用を持つ分子としてだった。今日紹介するタフツ大学からの論文は、クリスパー技術を駆使してレプチンの作用する神経回路を明らかにしようとする研究で、4月26日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genetic identification of leptin neural circuits in energy and glucose homeostasis(レプチンの作用するエネルギーとグルコースのホメオスターシス維持回路)」だ.

教科書的にはレプチンは視床下部のAgouti related peptide(AGRP)を発現する神経細胞に作用するとされていたが、この論文を読むとこの細胞でレプチン受容体をノックアウトしてもマウスの食欲や代謝に大きな変化が起こらず、新しい回路を特定することが急務だったようだ。

この研究では、なるべくレプチンの2次的な作用を拾わないような実験系を探索し、インシュリンの分泌が低下したマウスを用いることで、肥満一般の作用を排除してレプチンに反応する神経を特定しようとまず試み、弓状核(ARC)内のAGRP分泌 ニューロンがレプチンに直接反応する神経細胞であることを特定している。

この結果は、AGRPニューロンでレプチン受容体をノックアウトしても異常が起こらないという結果と矛盾する。しかし、アデノ随伴ウイルスベクターで局所的にノックアウトする方法を用いてAGRPニューロンでレプチン受容体遺伝子をノックアウトすると、レプチンの代謝や食欲への効果が完全にブロックできたことから、AGRPがレプチンの作用を媒介することは明らかになった。この矛盾を探るためにAGRPニューロンの作用の調節機構を、局所でのクリスパー技術と一般的ノックイン技術を組み合わせて特定の神経の遺伝子を自由自在にノックアウトする方法を駆使して、AGRPニューロンでのレプチンの作用をKチャンネルが促進すること、さらにこのニューロンをレプチンによりポジテッィブに刺激されるGABA作動性ニューロンが活性化するという複雑な回路になっていることを明らかにしている。すなわち、レプチンはAGRPニューロンを抑制的に調節するが、それをレプチンによりプラスに活性化される神経がGABAを介して2重に調節しているため、単純なノックアウトではレプチンの作用が見えないこともわかった。

レプチンのネガティブ、ポジティブ両方の作用が同じ神経に集まるという分かり難い話だが、要するに、レプチンの作用する主要回路が分かったと理解してもらえばよく、今後新しい分子標的を探し出して、レプチンの機能を臨床にトランスレートするための基盤ができたと考えられる。

ただ、一般の研究者にとって、この結論より遺伝的に特殊な細胞だけでクリスパーが働くようにした上で、アデノ随伴ウイルスを用いて局所で様々な遺伝子をノックアウトするという技術を駆使してこの研究が行われていることで、結論より参考になるのではないかと思った。

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