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5月30日:気持を集中させ記憶を高める過程のメカニズム(Nature Neuroscienceオンラン掲載論文)

2018年5月30日
私たちには視覚を通して膨大な情報が刻々入ってきており、その大半は意識されずに通り過ぎる。さらに、その時点で見たという意識があったとしても、殆どが記憶に止まらない。実際、美術館へ絵を見に行っても、美術館から出たときには記憶に残る絵はそれほど多くない。こんなとき、スマフォで写真をとるだけで、絵を記憶にとどめやすくなることが知られているが、注意をむけることで記憶は間違いなく高まる。 この過程は、見たという認識を注意により変化させる過程と、変化した認識を選択して記憶する過程に分けることが出来る。見たという認識を変化させる過程は、視覚野で見るという認識の神経活動を高めることで行なわれるが、注意を向けて刺激を高めた表象を選ぶのは前頭葉の注意に関わる領域で、視覚には直接関わらないと考えられる。

今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、それぞれの過程に関わる人間の脳領域を、脳内に留置した電極で記録する脳活動を分析した論文でNature Neuroscienceにオンライン出版された。タイトルは「Attention improves memory by suppressing spiking neuron activity in the human anterior temporal lobe (注意することで側頭葉前部のスパイク神経の活動が抑えられ記憶がよくなる)」だ。

画面に現れる単語を記憶してもらう時、単語が現れる前に☆印で注意を喚起することで記憶が高まるが、この研究では、癲癇の発生源を特定するために脳内に電極を設置した患者さん18人でこの一連の過程での神経活動を、側頭葉前部、側頭葉後部、そして前頭葉で記録を取っている。実際には、☆印を見た時から単語を見た時にかけて起こる神経興奮を脳波として記録しているが、4人の患者さんについては各神経の興奮をスパイクの数として記録している。誰でも海馬でも見たいと思うかも知れないが、あくまでも診断のために設置する電極なのでそれは叶わない。

それでも多くのことが分かる。注意により視覚が選択される前頭葉の注意領域では、⭐︎印で注意を喚起した後で単語を見た時だけ興奮が高まっており、視覚事態には反応せず、注意を喚起された視覚の表象の選択に関わっているのがわかる。一方、視覚にすぐに反応する側頭葉後部では、全ての視覚刺激に反応しているが、注意を喚起された時はより高い興奮が起こっており、目からの刺激に早期に反応する領域ですでに注意を向ける影響があるのが分かる。そして最もおもしろいのが、側頭葉前部で、⭐︎印を見る、見ないに関わらず、単語に対しての反応はほとんどないが、☆印を見た後、単語を見るまでの間、神経興奮が強く抑制されており、注意を視覚野へ振り向けるハブになっていることがわかる。

この領域は単語自体には反応していないので、注意を向けるという準備に関わる領域であることが想像される。個別の神経活動の記録でも、☆印を見たときだけ、スパイクの数が大きく低下していることが分かる。また、この低下は実際の単語を見ている時まで続いており、視覚の選択のためのシグナルがここから送り続けられていることがわかる。

以上の結果から、注意が喚起されると側頭葉前部の興奮が低下することが、視覚のシグナルを高め、記憶への選択が行われている事が想像される。

通常なら話はここで終わるのだが、この研究では癲癇の発生源を切除する治療により側頭葉前部を除去した患者さんで本当に注意による見たものの記憶が低下するか調べ、この領域を切除すると、注意を向けても記憶が高まらないことを示している。

以上、注意と意識とは別のものだが、人間の意識を理解するための重要な一歩ではないかと考えながら読むことができた。しかし、脳内で多くの神経細胞が合理的に活動しているのを知ると感動する。

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