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7月16日:サイトメガロウイルスとの共生?(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2018年7月16日
ヘルペスウイルスは感染後発病に至らなくてもホストの細胞の中で、ウイルスエピゾームとしてほぼ一生残存する。ホストのゲノムの中に組み込まれる場合も報告され研究されているが、基本はウイルスゲノムは独立して潜在する。最も有名なのが帯状疱疹で、神経根に住み着いたウイルスが、ホストディフェンスの低下により急に現れ、特に高齢者では大きな問題になる。このヘルペスウイルスの仲間の一つがサイトメガロウイルスで、我が国の成人の8割程度に潜在的に感染しているのではないだろうか。高齢者や医療により免疫機能が低下した場合、様々な病気を引き起こす。

2015年1月、このブログで人間で200項目もの免疫指標を網羅的に調べたスタンフォード大学からの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/2743)。この論文で最も驚いたのが、サイトメガロウイルスの遷延感染の有無によって私たちの免疫機能が大きく変化することを示すデータだった。その時は、あまりポジティブには取らず、ウイルスの遷延感染により免疫能力がそちらに向けられてしまうのかなどと勝手に解釈していた。

ところが今日紹介するアリゾナ大学からの論文はサイトメガロウイルス(CMV)が老化による免疫能力の低下を抑える良い働きをしている可能性を示唆する研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Lifelong CMV infection improves immune defense in old mice by broadening the mobilized TCR repertoire against third-party infection(一生涯続くCMV感染は他の病原体の感染に対して誘導できるT細胞レパートリーを拡大して老化マウスの免疫抵抗力を高める)」だ。

断っておくが、この研究はマウスの、極めて特異的な感染モデルを用いており、本当にヒトでも当てはまるのかはわからない。しかし、現象自体は面白い。 このグループはおそらくCMVの感染の影響について長年研究してきたのだと思う。20週目のマウスにCMVを感染させて20ヶ月齢になるまで待ち、老化マウスの免疫機能がCMVの遷延感染によりどう変化するか見ている。 免疫機能については、一つの抗原に対するCD8T細胞の反応に絞って見ている。 病原体としてはマクロファージに寄生するリステリアを使っているが、リステリア自体の抗原に対する反応を見るわけではなく、リステリアにニワトリ卵白アルブミンの一部のペプチドを発現させ、それに対するT細胞反応だけを見るという系を用いている。

実験では、それぞれのマウスからこのペプチドと結合したクラスI抗原に反応するT細胞をセルソーターで集め、その細胞が発現しているT細胞受容体の遺伝子配列を比べ、反応するレパートリーの違いを調べている。

詳細を省いて、結論をまとめると次のようになる。
1) マウスでは、老化とともに抗原に反応するT細胞受容体のレパートリーが限られて来る。この系統のマウスでは、TRBV12-1遺伝子を持った少数の細胞クローンに絞られる。ところが、CMV遷延感染動物では、正常の若いマウスと比べても、様々なレパートリーのT細胞が反応している。
2) このペプチド抗原に反応するレパートリー全体の多様性を調べると、老化により低下するのをCMV感染が防ぎ、やはり正常の若いマウス以上のレパートリーが反応してくる。
3) このレパートリーが老化しても維持される一因は、老化に伴うT細胞レパートリーの減少がCMVで防がれることにある。
4) ただ、それ以上にCMV感染により多くのT細胞レパートリーが満遍なく誘導でき、偏りが生じないことが大きく寄与している。
5) とはいえ、刺激前のレパートリーはすべてのマウスで同じで、この差はCMV感染を持っていると、誘導されるT細胞レパートリーの偏りを抑える抗原刺激が可能になる。その結果、普通なら反応の弱い変異抗原に対する反応性も維持される。

以上が結果で、なぜこうなるかは分からないが、CMV感染が一つの抗原に対して多くのT細胞クローンを誘導する事に寄与し、クローンが制限されるため、感染源側の変化に対応できないという状態を防いでいるという結論になる。

もしこれが全ての抗原でも当てはまり、またヒトでも当てはまるなら、極めて重要な現象になる。特に、ガンのネオ抗原に対する免疫を考えると、多くのクローンが反応できる方が望ましい。ぜひ、CMVに感染しているガンの患者さんと、感染していない患者さんで、免疫チェックポイント治療の効き方を調べる調査をしてほしいと思う。

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