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7月30日:カタストロフによる自然選択(7月26日号Nature オンライン版掲載論文)

2018年7月30日
地球に衝突した隕石のディープインパクトが、恐竜をはじめとする地球上のほとんどの生物を絶滅させ、それまでマイノリティーだった生物に新たなチャンスを与えた話は、真偽はともかく、よく知られた進化のドラマだ。事実、全球凍結を経験した地球になお生物が生存し、その後すぐに多細胞動物が現れたとすると、火星に生命がいてもなんの不思議はない。とは言え、このようなカタストロフが生物にとってどのような選択圧になるのかについては、具体的に結果を目にすることは難しい。

今日紹介するハーバード大学からの論文は史上稀に見る風速80m級の超巨大ハリケーン、イルマ、マリアに相次いで襲われたカリブの小さな2つの島で、ついにカタストロフによる自然選択の結果を見るチャンスに恵まれた研究者のお話で、7月26日号のNatureに掲載された。タイトルは「Hurricane-induced selection on the morphology of an island lizard (ハリケーンが小さな島に生息するトカゲの形態に及ぼす選択)」だ。

この研究グループはこれらの島に生息するアノールトカゲの生態を調査していたようだ。そして、調査が終わってすぐ、これらの島が二つの超大型ハリケーンに襲われた。アノールトカゲの生態から考えて、強風により飛ばされ、ほとんどが命を失ったのではないかと心配して(と勝手に私が考えているだけだが)、ハリケーンが通り過ぎた3週間後(最初の調査が終わって6週間後)島に戻って、生き残ったアノールトカゲを調べた。幸い、全滅はしていなかったようで、生存したトカゲをサンプリングし、生き残った理由を調べることにした。もともとこのグループはトカゲの運動能力について熟知しており、これまでの研究に基づきこのトカゲの運動能力を決める前足、後ろ足、そして捕まる時に必要な指先のパッドの広さについて調べている。

結果は、何かにしがみつく時に必要な指パッドは大きくなり、前足は少し長く、一方後ろ足は長くなっていた。これは2つの別の島で全く同じように見られたことから、偶然ではなくハリケーンというカタストロフに対して、同じ種が同じように選択されたことを示している。大事なことは、この変化がこれまでの生態研究の結果で十分説明できることだ。著者らは、長い前足と広い指パッドで枝や地面にしがみつくのに役にたち、一方、後ろ足が長いと風を受けたとき飛ばされやすいため、淘汰されてしまったと説明している。

研究としては、拍子抜けするような単純さだが、Natureが採択したのは、カタストロフによる選択は、ハリケーンを挟む6週間という短い時間に、種内の形態を一変させることを目で確かめたという、稀有なチャンスを逃さなかったという一点にあるだろう。実際、短期間で見られる自然選択の例は数多く報告されているが、6週間という短い期間に行われた調査によって確かめられた例は今回が初めてだろう。今後、カタストロフにより起こった選択が、これらの島で生きていくために吉と出るか、凶と出るのか、それとも全く無関係なのか調査を続けて欲しい。

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