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9月3日:多数の分子の同時投与により脊髄介在神経を活性化させる脊髄損傷治療(8月29日号Nature掲載論文)

2018年9月3日
先日急性の脊髄損傷を介在ニューロンを上手く刺激して切断された場所の神経伝達をリレーさせるという、これまでとは違うだいぶユニークな脊髄神経再生の戦略についての論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/8734)。結果自体は機能が戻ると言う点でわかりやすいが、Ca/Clポンプを使うという一般の人には少しわかりにくい研究だったと思う。

そして今週UCLAからも脊髄内に存在する介在神経再生に関する論文がNatureに発表された。先週紹介した論文と比べると比較的わかりやすく、要するに再生の条件を全て整えてやれば脊髄内の介在神経を活性化し再生させられるという一見当たり前の話についての報告で、論文のタイトルも「Required growth facilitators propel axon regeneration across complete spinal cord injury(必要な増殖促進因子があれば完全に切断された脊髄神経も再生できる)」と、メッセージをそのまま伝えている。

この研究も急性の脊髄損傷についての話で、これが損傷後時間が経過した慢性の神経損傷にも通用するかどうかは残念ながらわからない。いずれにせよ、著者らの発想は極めて単純で、脊髄介在神経が切断されたギャップを超えて伸びないのは、損傷場所に必要なすべての条件が整っていないからで、それさえ切断場所に提供できれば神経再生が見られるという可能性を調べている。

誤解のないよう繰り返すが、この研究でも脳から伸びてくる神経ではなく、先週紹介した研究と同じように、脊髄固有ニューロンの再生を促し切断場所をリレーさせて機能を回復させることが目的だ。先週紹介した論文では、介在神経をCa/Clトランスポーターの活性を維持してやれば介在神経が活性化され回路形成に動員できるという玄人向きの話で、私でも意外な取り合わせだと思ったが、今回は介在神経細胞の活性化に関わることがこれまで示された全ての条件を脊損部位に投入するという極めて分かりやすい戦略だ。

ただそのために、必要と思われる様々な因子の組み合わせを比べ、最終的にアデノ随伴ウイルスを用いてOsteopontin/IGF1/CNTFを脊髄を切断する2週前に投与した後、損傷後2日目にFGF+EGF+GDNFをつめたハイドロゲルを損傷部位に一回、そして神経を引き寄せるため切断部位より後部に投与したとき多くの介在神経が切断箇所を越えて再生するのを観察している。必要な全部を局所に投入するというのは簡単そうに見えるが、実際にはハイドロゲルや遺伝子治療を組み合わせる大変な方法だ。

ギャップを超えて介在神経が伸びることがわかったので、あとはなぜ再生できたのかラミニンの必要性など詳しく解析しているが、切断箇所をこして伸びているという答えが先にあるため、この解析結果は現象論でしかないように思う。大事なことは、この介在神経が脊髄神経の細胞体の存在する灰白質に入って神経と電気生理学的に機能的なシナプスを形成するところまで確認している点だろう。

残念ながらこの研究ではマウスやラットの運動機能が回復するところまでは見ておらず、これを示すにはリハビリテーションも加えた気長な検討がさらに必要になると思う。また損傷より前にウイルスによる分子の供給を行なっている点でも、まだ基礎研究の段階だ。しかし介在ニューロンを脊髄再生の標的にしようという方向性はトレンドのようで、現実的だ。この研究は、あまり考えずに必要と思われる条件を全て組み合わせて損傷局所に投与するという、極めてナイーブな方法、すなわち力仕事なので、逆に説得力がある。ハイドロゲルを用いる投与法も実践的なので、さらに人に近いモデルで実験を続けて欲しいと思う。

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