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9月5日:頭蓋骨髄から直接脳へとつながる血管ルートが存在する(8月27日号Nature Neuroscience掲載論文)

2018年9月5日
医学部の授業の中で、一番苦労したのが骨学、特に頭蓋を観察しながら各部の名前を覚える学習だった。頭蓋から出てくる顔面神経の通る穴を覚えるのが苦手で、自分に構造や立体感覚を捉える才能が皆無であること、また詳細を地道に拾う根気がないことがよくわかった。

今日紹介するハーバード大学医学部からの論文を読んで遠い昔の医学生時代の頃を思い出したのも、この論文が頭蓋から脳内に直接つながる血管を通って白血球が移動することを示した、「え!」と思いたくなる論文だったからだ。タイトルは「Direct vascular channels connect skull bone marrow and the brain surface enabling myeloid cell migration (顆粒球の頭蓋骨髄から脳表面への移動を可能にする直接の血管チャンネル)」だ。

この研究は、頭蓋骨髄と、脛骨骨髄中の血液細胞が同じような動態で炎症局所にリクルートされるのかという素朴な疑問から始まっている。これを明らかにするため、頭蓋と脛骨の骨髄腔に異なる色の蛍光物質を直接注入して色分けし、様々な組織に現れる、脛骨由来および脛骨骨髄由来の顆粒球の割合を調べている。なかなか素朴な方法で、よく思いついたと思う。こうしてラベルした後、末梢血や、脾臓を見てみると、それぞれは混じり合って存在している。

ところが脳卒中を起こさせたマウスの脳組織で調べると、卒中後6時間目の脳組織に浸潤してくる白血球は頭蓋骨由来のものが2倍多い。また、脳に炎症を起こす操作をすると、やはり頭蓋由来の白血球が2倍多いことがわかった。一方、心筋梗塞部位への浸潤でみると、大きな差はない。

この原因の一つが、卒中により誘導される骨髄からの白血球動員が頭蓋からの方が機動的ではないかと考え、骨髄中の顆粒球の数を調べると、卒中後頭蓋骨髄では明らかな好中球の減少が見られており、迅速な動員を可能にする特別なメカニズムが存在するのではと考えられた。

この一つの理由は、頭蓋骨髄では好中球を骨髄内に維持するSDF-1の量が減っているので、卒中により頭蓋だけでSDF-1のレベルを低下させるシグナルが出ているのかも知れない。そして、さらにこの素早い動員の原因を探っていく中で、頭蓋から脳の硬膜外へと続く血管構造が存在し、その中に単球や好中球が存在することを見つける。生きたマウスの頭蓋を共焦点顕微鏡で観察して、この血管内では血流は骨髄腔の方に、好中球は逆に脳の方に移動することを観察している。最後に人間の頭蓋も組織学的に調べ、マウスより少し大きな穴が多数存在し、そこを血管が通っていることを確認している。

以上が結果で、頭蓋だけは脳の炎症に対して迅速に対応する特別な構造を作っていたという話だ。残念ながらこのルートで脳内にリクルートされる細胞の機能については全くわからない。実際、脳は一般的に全身の循環からはかなり独立しているからこそ、ミクログリアなどは発生初期に一回リクルートされるだけだと納得していた。この結果が本当だとすると、白血球系の細胞も脳内に簡単にリクルートされるような気がするが、他の条件で是非調べて欲しい。

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