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古い創薬手法の復活(Nature Chemical Biologyオンライン版掲載)

2013年12月24日

ほとんどの公職を辞した後も、実は後藤先生率いる理研創薬プログラムには積極的に関わっている。というのも、患者さんが本当に待ち望んでいるのは新しい薬の開発なのに、私自身の創薬経験は皆無だ。その意味で、藤沢薬品時代にFK506を開発し臓器移植をより安全な治療にするのに多大な貢献をされた後藤先生のチームの活動を見ることで学ぶことは大だ。こんな訳で、新しい創薬手法については大変興味がある。以前(12月8日)、なぜ骨髄腫にレナリドマイドが効くのかを明らかにした論文を紹介した時、細胞に対して効果がはっきりしている化合物があれば、異なる重さのアイソトープを用いるSILACという方法で標的分子を明らかにする方法があることを知った。今日紹介する研究は、activity based protein profiling(ABPP)というタンパク質の活性を用いることで迅速に化学化合物の標的蛋白を特定出来るという論文だ。サンディエゴにあるスクリップス研究所の研究で、「Integrated phenotypic and activity based profiling links Ces3 to obesity and diabetes(形質と活性に基づく蛋白のプロファイリングを統合することでCes3を肥満と糖尿病に関連づけることが出来た)」というタイトルがついている。
   SILACとは異なり、この方法は最初どのような分子を標的にするかある程度あたりをつけておく必要がある。しかし、元々薬剤になりやすい標的の活性はある程度限られてくるので、この方法も今後十分期待出来る。この研究ではセリン加水分解酵素を標的にしている。論文では、脂肪細胞の分化培養を用いて、セリン加水分解酵素を抑制する化合物をスクリーニングし、有望な化合物をいくつか選んだ後、次にABPPを用いてどの分子が選んだ化合物の標的かを決めると言う順序で、肥満や糖尿病に有効な薬剤開発が出来ることを示している。私に取ってこの仕事の重要性は、肥満の薬剤が出来たということではない。それよりも細胞自体の活動変化を指標に化合物を見つけてしまえば、迅速に標的分子を特定し化合物が効くメカニズムを明らかに出来る時代が来たという点だ。現在分子生物学が発達して、分子の機能を指標に化学化合物を探す方法が創薬のための柱になっている。しかし、分子レベルではっきりした効果があっても、複雑な細胞で検査すると効果が出なかったり、副作用が出ることが多かった。この論文でも、1999年から2008年で創薬に成功したお薬の6割近くがまだ細胞の活性を指標にした古い手法を用いていたことを紹介している。勿論後藤さんのFK506も細胞活性を抑制する分子として見つかっている。即ち、細胞の活性でスクリーニングした方が、良い薬剤に当たる確立が高いということだ。ただ、発見出来た化合物がなぜ効くのかを明らかにするために今度は時間がかかってしまっていた。この意味で、SILACや今日紹介したABPPが利用出来ることで、古いとされて来た細胞活性を指標にする薬剤の開発がもう一度表舞台に登場し、さらに有望な化合物を発見するための時間も短縮すると期待出来る。そしてこのことは患者さんたちにとっての朗報だ。今後も新しい創薬手法を学んでここで紹介しようと思う。


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