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細胞の中の遺伝子を生きたまま見る(12月19日号Cell誌掲載論文)

2013年12月26日
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山中iPS論文に少し遅れた2007年、CRISPRと呼ばれる、生きた細胞の遺伝子を高効率に編集するテクノロジーが報告され、今や大フィーバーになっている。サイエンス誌でも今年の十大ニュースのトップにあげており日本語版では、「大衆のための遺伝子マイクロサージェリー」と紹介されている。この技術のお陰で、どんな細胞でも遺伝子のノックアウトや入れ替えが簡単に出来るようになった。勿論山中iPS等にも利用され、遺伝子を元に戻して患者さんに移植する可能性についての論文が既に発表されている。しかしこの方法は遺伝子改変にとどまらない。詳しくは述べないが、この方法を基礎に細胞の遺伝子発現調節を中心に多くの更なるテクノロジーが生まれることが期待されている。今日紹介する論文は12月19日号のCell誌に掲載されたカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究で「Dynamic imaging of genomic loci in living human cells by an optimized CRISPR/Cas system (CRISPR/Casテクノロジーを至適化して生きたヒト細胞で遺伝子座のダイナミックな動きを観察する)」がタイトルだ。CRISPRの原理をここで詳しく述べることはしないが、操作したいホストゲノム部分に相補的に結合するガイドRNAに結合するCASという蛋白によって遺伝子を切断することが基礎になっている。このことはCAS蛋白が標的遺伝子部分に結合したガイドRNAに結合することを意味するので、このCASを使えば生きた細胞の標的遺伝子部分を標識できることになる。ただ、CAS蛋白はホスト遺伝子に切れ目を入れる機能があるので、この研究ではこの活性をつぶしたCAS蛋白に蛍光蛋白が連結したキメラ遺伝子を作り、CASが結合する遺伝子座、すなわちガイドRNAが結合している部分が光って見えるようにした。一般の人にはなかなか理解してもらえないだろうが、生きた細胞の核の中のどこに調べたい遺伝子が位置しているのかがついに見えるようになったかと思うと、急速に科学が進んでいることを感じて興奮する。しかし、このCAS分子自体は日本で発見されたことを知ると、これを今あるようなテクノロジーにして行くために必要な科学者間のコミュニケーションに日本は難点があることも理解出来る。いずれにしても、次にどんなテクノロジーがCRISPRから生まれるか、当分目が話せない。

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