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1月3日:食べる喜びの調節回路(Cell Metabolism 4月2日掲載予定論文)

2019年1月3日
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さて正月の最後として、昨日の「酒」の話に続いて、「食」についての論文を紹介しようと探していたところ、4月掲載予定というかなり早くから先行出版されていた論文を見つけることができた。私の第二の故郷とも言えるドイツ ケルンにあるマックスプランク代謝研究所からCell Metabolismに発表された論文で、タイトルは「Food Intake Recruits Orosensory and Post-ingestive Dopaminergic Circuits to Affect Eating Desire in Humans (食べ物の摂取は味感覚と食後のドーパミン回路を介して人間の食への欲望を変化させる)」だ。


ずいぶん前に生命誌研究館のブログに、私たちの満足や喜びが、中脳辺縁系のドーパミン回路を中心に、行動への欲望を高めるWanting回路、満足に関わるLiking回路、そして これらを更に高次の脳回路につなぐlearning回路から調整されているBerridge&Kringelbachの研究を紹介した(http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2017/post_000010.html)。一般の人には少し難しいかもしれないが、これを読んでいただくと、中脳辺縁系だけでなく、脳全体に散らばった様々な領域が快感を調節する複雑な回路を形成していることがわかってもらえると思う。ただ、このブログで紹介したのはほとんどラットなどについての話で、人間の快感回路についての論文は少ない。


この研究では健康成人ボランティアのミルクセーキと味のない飲み物を舌先に流し込んだ時の脳の興奮を機能的MRI(fMRI)で、また快感にもっとも深く関わる領域内でのドーパミンの遊離をドーパミン受容体に結合してドーパミンと競合する放射性racloprideを用いたPETで測定し、それらを総合して美味しいものを食べた時に脳全体に散らばる快感回路がどう働くのかを調べている。


実験は徹底しており、味覚だけが刺激されるように、舌先にカテーテルでミルクセーキが流し込まれるようにしている。これにより、視覚などの複雑な回路は対象から除外できる。ミルクセーキも、4種類の味の中から快感反応が最も高いものを選び実験に用いている。


以上の方法で記録すると、脳の様々な領域の活動やそこでのドーパミンの遊離が記録できるが、活動範囲は多岐に渡っている。この研究では、これまでの研究に基づきWanting, Liking, Learning領域として分類し、結果を解釈している。


さて結果だが、

1) ミルクセーキが流し込まれるとすぐに味覚感覚の満足に関わる領域でドーパミン遊離が検出できる。

2) 摂取後しばらくして最初の反応が収まった頃、もう一度様々な脳領域でドーパミン遊離が観察される。

3) ドーパミンが遊離される早い反応と遅い反応に関わる領域はそれぞれ異なっている。

4) この中で、味覚感覚後すぐにドーパミン遊離が観察されるWantingに関わる領域(例えば前帯状皮質)でのドーパミン遊離は、食後におこる例えば被蓋でのドーパミン遊離と逆比例している。

などなどだ。


これらの測定結果から、食べてすぐのWantingやLiking反応は、食後に消化管などからの体性刺激は被蓋を介して高次脳機能に働いて摂食行動を抑制して、食べるのを適量に抑えるが、最初から期待が高く前帯状皮質などの興奮が高まると、被蓋の活動が抑えられる結果、余分に食べてしまうと解釈している。


なるほど、今日はお正月と思ってしまい、視覚からも期待が高まってしまうと、ついつい食べすぎになる理由がよくわかった。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    正月3報目、今日は、昼食を食べながら読ませていただきました。

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