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1月10日 ギャンブルするラットの脳(1月2日号Neuron掲載論文)

2019年1月10日
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現役時代は神経科学が苦手な方だったので、引退してからは脳神経科学の論文を無理してでも読んで、苦手ができないようにしている。ただ、Optgeneticsなど新しい方法にはついていけるが、多くの神経細胞の記録を、様々なモデリングで検証したりする数理的方法にはなかなか馴染めないでいる。巷では猫も杓子もAIの話をするが、論文を読んでいると脳科学では、ずっと昔からAIと同じ手法が個々の神経活動と行動の相関(correlates)を調べる方法として定着している。神経科学の苦手意識をなんとか克服すると(間違っていることも多いと思うが)、神経科学には面白い話が溢れている。先週、ギャンブルに関する論文を2報も見つけたので、今日・明日と、両方紹介してしまうことにする。

今日はラットを使ってギャンブルをするときの脳を研究したウィーン医科大学からの論文で、1月2日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Activity of prefrontal neurons predict future choices during gambling(ギャンブル中の次の選択と相関する前頭前皮質神経活動)」だ。

この研究のハイライトは、ラットにギャンブルをやらせることに成功したことに尽きる。実際には、分岐部でリスクをとるか、安全を取るかの決断をさせるY字型の迷路でギャンブルの経路と、安全な経路を覚えさせる。リスクをとる必要がある経路では、褒美を4個もらえるが、その確率が変化するようになっており、その確率はギャンブルをしながら理解するようになっている。一方、リスクを取らない経路では、確実に褒美が一個もらえる。普通に考えれば、ラットは迷路の性質を理解した時点で、確実に褒美にあずかれる安全経路を取るように思うのだが、ギャンブル経路で何が起こるか訓練されると、リスクをとることがわかった。しかも、ギャンブル経路で褒美が出てくる確率が高い時ほど、多くリスクをとることもわかった。

あとは、このリスクをとるという決断と相関する神経活動を特定することになるが、この研究では報奨に関わるpre-limbic cortexに焦点を絞ってクラスター電極を設置し、1000ヶ所で神経活動を記録している。

Prelimbic神経は、リスクを取っているかどうか(どちらの経路を選んだか)に反応する集団、褒美の数に対して反応する集団、それぞれの相互作用に関わる集団などに分類できる。そして、かなりの数の神経が、何も褒美が得られなかった時に強く活動することがわかった。すなわち、ネガティブな結果に反応する。

次に記録した活動の中から、リスクを取るかどうかの決断と相関する神経活動を探すと、その前の結果(失敗の結果)を受けて、次にリスクをとってギャンブル経路を選ぶかどうかの決断と相関する神経集団が存在することを見出している。

その上で、pre-limbic皮質の活動をoptogeneticsで抑えると、ギャンブルする回数が増えることがわかった。すなわち、直前の結果を色々考えて、その上で決断した時に活動する神経細胞がprelimbic皮質に存在しており、これが侵されると、ギャンブル好きになるという結果だ。

話はこれだけで、残念ながら背景にある神経回路や分子メカニズムには全く踏み込んではいない。それでもラットがギャンブルをする系ができただけで十分面白いとレフリーも納得したのだろう。明日は、ギャンブルする人間の脳についての論文を紹介する。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    リスクとベネフィットを天秤にかけ計算し行動を選ぶ。高度な作業と思ってましたが、生物、少なくとも哺乳類に生得的に備わってる能力だったんですね。

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