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1月21日 エイズウイルスは自然免疫をどう逃れるのか?(Natureオンライン版掲載論文)

2019年1月21日
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私たちの体にはウイルスに対する様々な抵抗手段が備わっているが、全てウイルスを感知するところから始まる。抗体やT細胞による免疫反応は、ウイルス抗原を処理し、ペプチド抗原としてT細胞に提示するところから始まるが、これ以外にも自然免疫システムがあり、多くの場合侵入してきたウイルスの核酸を認識して、インターフェロンなど自然免疫反応が誘導される。逆に、人工的に合成した核酸でこの感知システムを刺激するのが、拡散アジュバントだ。

エイズウイルスなどRNAウイルスの場合、侵入したRNAが宿主のRNAと区別して感知されるのだが、これはホストRNAのリボースの一つの水酸基を2’O―MTaseでメチル化することでウイルスから区別されている。すなわち、このマークがないとウイルスのセンサーに引っかかる。もちろんウイルスの方もさるもので、ホストと同じ2’O―MTaseを使って自分のRNAを2’Oメチル化してセンサーを逃れる種類がある。しかし、自分で2’O―MTaseを持っていなくとも、自然免疫を刺激しないウイルスもあり、その一つがエイズウイルス(HIV)だ。このため、HIVも何らかの方法で自らのRNAを2’Oメチル化していると考えられる。

今日紹介するフランスモンペリエ大学からの論文はHIVが自然免疫を逃れるメカニズムを明らかにした、結構オーソドックスな研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「FTSJ3 is an RNA 2′-O-methyltransferase recruited by HIV to avoid innate immune sensing (FTSJ3はRNA2’-O-メチル基添加酵素をリクルートして自然免疫の感知を逃れる)」だ。

あとでデータが示されるが、著者らはHIVも2’Oメチル化されることで自然免疫に感知されないことを知っていたと思う。もしウイルスゲノムに2’Oメチル化酵素が存在しないなら、ホスト細胞の2’Oメチル化酵素をウイルスも使うシステムがあるはずだと考えた。そこでHIV のLTRを活性化するRNA-結合タンパク(TRBP)に注目し、これが2’Oメチル化酵素をHIV RNAに連れてくると考え、TRBPに結合するタンパク質を探索したところ、2’Oメチル化酵素活性を持つFTSJ3を特定することに成功した。

実際HIVを感染させた細胞でもFTSJ3とTRBPが結合しており、またTRBP結合サイト(TAR)を持つHIV-TAR-RNAにリクルートされることも明らかにしている。そして、HIVウイルス粒子内のRNAが2’Oメチル化されており、感染細胞からFTSJ3をノックアウトすると、ウイルスRNAのメチル化が抑制されることを明らかにしている。すなわち、最初考えられた様にウイルスはTRBP と結合する能力を身につけることで、TRBPが2’Oメチル化酵素FTSJ3を利用して2’Oメチル化し、自然免疫から逃れられる様になる。

最後にこのシナリオを確認するため、FTSJ3欠損した細胞で合成させたHIVを単球細胞株に感染させると、インターフェロンが合成されることを確認している。すなわち、FTSJ3がウイルスを2’Oメチル化し、自然免疫から守っていることを証明した。

またHIVの一つの弱点が見つかり、今後ひょっとしたら治療につながるかもしれない。とはいえこんな論文を見ていると、動物と病原体の間で続いている永遠の競合をひしひしと感じることができる。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    週明け月曜日は仕事が貯まって、やっと休憩です。

    HIV のLTRを活性化するRNA-結合タンパク(TRBP)、これが2’Oメチル化活性を持つFTSJ3をHIV RNAに連れてきて
    HIVRNAを2’Oメチル化し宿主細胞内で生き延びる手段の一つ。

    確か、HIVといえば、レンチウイルスの一種で遺伝子治療で
    は容量の大きなベクターとしても利用されてるとも思います。

    2’Oメチル化の有無は遺伝子導入効率とかにも影響しているのでしょうか?

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