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2月10日 神経芽腫の新しい治療標的(1月30日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年2月10日
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神経芽腫は小児で最も多い固形腫瘍で、名前の通り未熟な神経細胞の腫瘍だ。この病気は、身体中に転移があっても急に癌が消えてしまうという劇的なケースを含み、多くの場合自然治癒する。ところが、n-Mycガン遺伝子が増幅したり高い発現を示しているケースでは、治療が難しく様々な治療法が開発された結果、死亡率は低下しているとはいえ、3年目の生存率が65%前後とまだまだ低い。

今日紹介するオーストラリア・ローリーガンセンターからの論文は649人の神経芽腫のバイオバンクとコホートデータを用いて、直接阻害剤を見つけるのが困難なn-Mycに代わる治療標的を探した研究で1月30日のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Inhibition of polyamine synthesis and uptake reduces tumor progression and prolongs survival in mouse models of neuroblastoma (ポリアミン合成と吸収の阻害によりマウス神経芽腫モデルで生存期間を延長し癌の進行を抑えることができる)」だ。

ポリアミンは細胞の増殖に必須の分子で、乳児の成長には欠かせない。このポリアミンが、ガンの増殖にも重要な働きをしており治療標的になる可能性が最近注目されており、ポリアミン合成経路の酵素ODC1の阻害剤が神経芽腫を含む様々なガンを抑えることができるか、治験が進んでいる。ただ、ポリアミンは外部からも吸収できるので、両方を抑制してガン細胞のポリアミン供給を断つ治療法の開発が必要になる。

この研究は、このアイデアの可能性を確かめることを目的としている。まず、ポリアミン合成に関わる遺伝子発現が高いガンほど経過が悪いことを明らかにし、ポリアミン合成経路が治療標的になりうることを確認している。

次にポリアミン利用のもう一つの経路外部からの吸収に関わる分子を探索し、SLC3A2と呼ばれる分子が神経芽腫で働く唯一の吸収システムであることを示している。

そして、これらポリアミン合成経路に関わる分子や吸収に関わるトランスポーター分子とn-Mycとの関わりを調べ、ほとんどの分子がn-Mycの活性が高まることで上昇してくることを明らかにしている。このことは、n-Mycを直接阻害できなくとも、ポリアミン代謝を標的にすることでmycの効果を半減させられる可能性を示唆しており、最後にポリアミン合成に関わるODC1阻害剤と、ポリアミンの吸収に関わるSLC3A2の阻害剤を、n-Mycを過剰発現させたマウス神経芽腫モデルを用いて試している。

結果は期待通りで、それぞれ単独ではあまり効果がないが、両方組み合わせると、他の薬剤と併用しなくてもガンを抑制する一定の効果が認められる。さらにより臨床に即した設定を試す意味で、現在行われている化学療法に細胞内のポリアミンを低下させる2剤を組み合わせると、大きな効果を得ることができる。

以上の結果から、ODC1阻害のみでは、吸収が上昇すると効果がないため、合成と吸収の両方を抑える治療法が行われるべきで、現在行われている他の治療と合わせることで、さらに高い効果を得られるということが結論される。

あとはこの結果をどう新しい治療のプロトコルにまとめるかだが、なかなか製薬が手を出さない小児のガンについてこのような治療法開発が進んでいることは勇気付けられる。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    0:ポリアミン合成関連遺伝子発現が高いガンほど経過が悪く、ポリアミン合成経路が治療標的になりうることを確認

    1:ポリアミン合成経路の酵素ODC1の阻害剤

    2:SLC3A2阻害剤:ポリアミンの外部からの吸収に関わり神経芽腫で働く唯一のポリアミン吸収分子の阻害剤

    3:1+2をn-Mycを過剰発現させたマウス神経芽腫モデルに投与すると、単剤投与より効果あり。

    →n-Myc過剰発現神経芽腫の新たな治療の可能性を示唆
    小児希少がんの治療法開発、大いに進んで欲しいです。

  2. Yoshinobu Hashizume より:

    トランスポーター阻害剤をrarionalにデザインするために、膜たんぱくの構造解析は重要な位置づけです。

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