AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月17日 C9orf72変異型ALSの発症メカニズム(2月15日号Science掲載論文)

2月17日 C9orf72変異型ALSの発症メカニズム(2月15日号Science掲載論文)

2019年2月17日

筋肉を支配する運動神経が徐々に死んで麻痺が進行する、現在まで治療法がない病気ALSのほとんどは特別な遺伝的要因なしに起こってくるが、遺伝的に要因がはっきりしたALSもある。その中で最も多いのがchromosome 9 open reading frame 72 (C9orf72)と呼ばれる、まだ機能が完全に確定していない分子のイントロンにある6塩基繰り返し配列が増大するALSで、家族性がない場合もこの遺伝子の変異を認めることがある。ただ、このように遺伝的原因がわかっていても、なぜ運動神経死が起こるのかのメカニズムについてはなかなか納得いく説明が示されてこなかった。

今日紹介するメイヨークリニックからの論文はC9orf72にこだわらずに、この病気の原因と考えられる繰り返し配列だけに焦点を当てたマウスモデルを用いて神経死のメカニズムに迫った研究で2月15日号のScienceに掲載された。タイトルは「Heterochromatin anomalies and double-stranded RNA accumulation underlie C9orf72 poly(PR) toxicity (ヘテロクロマチンの異常と二重鎖RNAの蓄積がC9orf72polyPRの毒性の背景にある)」だ。

この遺伝子変異により多様な異常が起こることが想像されているが、この研究が成功した理由は、ともかくGGGGCCの繰り返し配列からできるプロリン、アルギニンのポリペプチド(PR-P)の効果に焦点を絞ったことと、このタンパク質をGFPで蛍光標識して、この分子が細胞のどこに存在するか、細胞学的、生化学的に追跡できるようにした点だ。

蛍光標識した繰り返し配列をアデノウイルスで新生児脳に注射すると、毒性が強く6割のマウスは死んでしまうが、残ったマウスでは進行的な神経細胞死が進むことを確認して、これがC9orf72変異によるALSや前頭側頭型認知症(FTD)モデルとして使える事を示した上で、この繰り返し配列の機能を詳しく調べている。

膨大なデータなので、詳細は割愛して、結論だけを述べる。

  • この繰り返し配列(PR-P)だけで、ALSやFTDの病態のほとんどを説明できる。
  • PR-Pは染色体構造が閉鎖したヘテロクロマチンに特異的に結合する。
  • この結果核膜直下に限定してい転写を抑制するマトリックスが核内部にまで侵入し、転写される遺伝子が大きく再構成される。
  • PR-PによりヘテロクロマチンをまとめているHP1aが分解される。
  • この結果ヘテロクロマちんにより抑えられていた繰り返し配列の転写が促進し、細胞毒性のある二重鎖RNAが大量に合成される。

が主な結果と言える。

PR-Pの標的がヘテロクロマチンであることを発見したことがこの研究の全てだが、その結果としては結局様々な過程の引き金が引かれ、それが組み合わさって細胞死が起こるという結論になってしまう。この中では、細胞障害性を持つ二重鎖RNAの合成が一番病態に近いところにあるプロセスだが、とはいえALSでもう一つ重要なRNA蓄積として知られているTDP-43との関連も含めて、より多くの新しい問題が出てきたと言っていいだろう。ALSを理解することがいかに難しいか、よくわかる論文だと思う。