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3月9日 自閉症のMRI画像決定版(2月27日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年3月9日
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これまでなんども自閉症スペクトラム(ASD)の脳の構造をMRIで調べた研究については紹介してきた。このような研究の基本には、なるべく早期に発見出来る客観的指標を探し、早期治療を可能にしたいという思いがある。また、加齢に伴う変化を調べることで、ASDと脳の可塑性を調べることも重要になる。しかしASDがスペクトラムとして理解されているように、一つのグループの研究結果がそのままコンセンサスとして認められると言うまでにはなかなか至らず、実際論文間の結論の違いも多く認められた。

今日紹介するロッシュイノベーティブセンターを中心とするヨーロッパ各国が参加する研究チームの論文は、MRI検査についてのコンセンサスを確立すると言うことを目的に行われた研究で2月27日号のScience Translational Medicineに掲載されている。タイトルは「Patients with autism spectrum disorders display reproducible functional connectivity alterations (ASDの患者さんでは再現性のある脳の機能的結合性の変化が認められる)」だ。

繰り返すが、この研究は発見的研究というより、これまでの研究を見直してASDのMRI画像に関して皆が一致できる変化を特定することにある。これを実現するため、ヨーロッパで進んでいる2-300人規模でASDと一般人を追跡するコホート研究のうち、まず3コホートをMRI変化を特定するための探索に用い、またこれらとは独立して進んでいる3コホートを、探索により特定された変化を確認する目的で使っている。また、画像も安静時の各領域の機能的結合性を調べる方法に固定して、変化を探索している。要するに、ASDのMRI画像のAI研究と言っていいが、わざわざ流行りの言葉を使わないところにこだわりすら感じる。

結果はもちろんこれまでの研究と同じで、ASDの人たちでは、一般人と比べてMRI画像上の変化を特定することができ、この結果を他のコホート研究で確認するとともに、多くの人数を比べることで違いを効果量(effect size)として定量することができることを示している。

今回特定された変化についてまとめると、以下のようになる。
1)ASDの多くの人で、機能的結合が亢進している領域と、低下している領域が特定できる。そして、これらの変化の効果量は、ASDの程度と相関する。
2)機能的結合が低下しているのは感覚領域と運動領域との結合が中心で、亢進しているのは前頭皮質と頭頂皮質をハブとする結合で、基本的には皮質間の結合に限られている。
3)これまでの研究で示されていた、皮質と小脳や脳幹との結合性の変化は確認できず、ほとんど一般人と変化がなかった。
4)感覚野と運動野の結合性の低下は、この2領域間内での結合の低下と同時に、この2領域と他の脳領域との結合が低下することで起こっており、個人的な意見だが、ASDの人たちが示す外界の刺激に対する閾値の低さに関わるような気がする。
5)前頭葉、頭頂葉は、自発的に何かを実行するときに重要な機能を果たしている領域で、計画を立てたり、果敢に決断したりすることに関わる。実際、この領域の結合亢進と相関する症状を調べると、コミュニケーションや日常生活での困難が上がってくる。
6)ただ、これらの変化が原因か結果かは明確でない。実際、これらの変化の効果量は年齢が高いほどはっきりする。このことは、同じ変化が長期間維持されることを示すと同時に、この変化を強めていくモーメントが働いていることを示している。

他にも多くの重要な点が指摘されていると思うが、以上6点が私にとっては最も印象的だった。この領域ではかなり重要な研究だと思う。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    論文ウオッチ2017年10月14日号:
    同時に、親から遺伝だけではなく、新しい突然変異が自閉症の患者さんで積み重なることが病気の発症に関わっている。

    →こうした遺伝子レベルの変異がMRI画像変化とどのように結びつくのか?興味がつきません。

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