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報道に急性ストレス患者が拡がる(アメリカアカデミー紀要1月7日号掲載論文)

2014年1月9日

アメリカアカデミー紀要に目を通していると、医学や生物学だけでなく様々な分野で行われている研究の見出しが目に飛び込んでくる。たまには、ちょっと読んでみようかなと思う専門外の論文にも出会う。その例が今日紹介する論文で、「Media’s role in broadcasting acute stress following the Boston Marathon bombings (ボストンマラソン爆弾テロ後の急性ストレスの拡がりにマスメディアが果たした役割)」というカリフォルニア大学アーバイン校からの研究だ。1月7日号のアカデミー紀要に掲載されている。確かに普通学術雑誌では出会わない見出しだ。日本でも大きく報道されたボストンマラソンを標的にした爆弾テロ事件の2週間後からメールを使って質問を行い、爆弾テロによる市民ストレス反応にマスメディアがどれほど関わっているのかを調べている。対象は、爆弾事件を直接体験した可能性のあるボストン市民、対照として9.11の体験を持つNY市民、そしてそれ以外の地域のアメリカ人だ。勿論全ての対象者は事件後かなりの時間テレビ報道を見ている。この結果起こったと思われるストレス反応を調べてみると、事件後1週間続いた報道が明らかに視聴者の急性ストレスを誘導したと言う結果だ。面白いのは、ボストンでもNYでもストレスを起こした人の割合に差がない事から、直接の経験よりマスメディア報道の方がストレス反応に貢献しているようだ。さらに、9.11貿易センタービル事件やSandy Hook小学校の銃乱射事件を何らかの形で直接経験した人達は有意に急性ストレスを起こしやすかったが、巨大ハリケーンに出会った人が急性ストレスになる確率は経験のない人と変わりはなかった。即ち、テロ攻撃を受けたと言う特異的な経験が、その後テレビによる他のテロ事件報道に対するストレス反応を高める事がわかったと言う結果だ。私はここで使われた統計的手法が心理学的に正しいかどうかは判断できない。しかし、大きな事件が起こるとすぐに反応して、事件の人間への影響を様々な角度から調べ、科学論文にしていくバイタリティーは強く感じる。12月23日前ニューヨーク市長Bloombergが市の衛生局の人に査読を受ける雑誌への論文掲載を目指すようにと促した事を紹介したが、同じ精神がこの論文に現れていると思った。9.11やボストンマラソン爆弾テロは何度も起こってはならない大事件だ。しかし、それを報道するだけでなく、機会を逃さず報道そのものの役割まで検証する心理学者魂には脱帽だ。そしてこの様な積み重ねが思いつきではない政策へとつながる。
   我が国では先の東日本大震災により多くの人が影響を受けた。不幸を嘆くだけでなく、その影響を科学的に調べ、論文としてまとめて行く事は科学者の使命だ。幸いウェッブで調べてみるとこの大災害の心理的影響についても査読を受けた学術論文が出されている。今後この様な論文も紹介して行こうと思った。


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